恋するキミの、愛しい秘めごと


「それでは、長谷川企画株式会社・榊原さん、宜しくお願い致します」

その言葉と共に、静かに電気が消されたホール。

電動の暗幕で外の光が遮られ、少し埃臭くなったその部屋の壇上に、榊原さんがゆっくりと登る。


「長谷川企画株式会社の榊原です」

一礼をして、穏やかな表情を浮かべた榊原さんは、慣れた様子で周りをゆっくりと見回し口を開いた。


自社コンセプトを話す前に、会場の空気を和ませるように少しの笑いを誘う小噺を挟む。

クライアント側の人間も、他社の社員までも微笑んでしまうような語り口に、私も思わず頬を緩めた。


この前のプレゼンでも思った事だけれど、“さすがは榊原さん”といった感じ。

だけど隣のカンちゃんだけは、まるで監視でもするかのように、ジッと彼の姿を見据えたまま。


その様子を少し気にしながらも、前に向けられたままだった私の視線は――……

「それでは、こちらをご覧下さい」

スライドが映し出されたスクリーンを見て、凍りついた。


「我が社が提案させて頂くのは、博物館にいながら、まるで宇宙飛行士のような気分を味わえる――そんなカフェです」


何……これ。

だって、これは。


状況が掴めず呆然とする私の目の前のスクリーンに、鮮やかな緑の水草や、色とりどりの熱帯魚が泳ぐ球体の水槽が映し出される。


「壁は、黒もしくは濃紺のガラスを予定しております。その空間の至る所に、大小様々な球体を、まるで宇宙に浮かぶ惑星のようにあしらって――」


これは……私が考えた物だ。


それに画像だって、私が作った物に多少手を加えていたり、反転させた物ばかり。

世界には、数えきれないほど沢山の人がいるのだから、同じような物を作ろうと考える人だっているかもしれない。


だけど……。


「日和、一旦外に出るぞ」


これだけの類似は、あるはずがない。

< 117 / 249 >

この作品をシェア

pagetop