恋するキミの、愛しい秘めごと
「それでは、長谷川企画株式会社・榊原さん、宜しくお願い致します」
その言葉と共に、静かに電気が消されたホール。
電動の暗幕で外の光が遮られ、少し埃臭くなったその部屋の壇上に、榊原さんがゆっくりと登る。
「長谷川企画株式会社の榊原です」
一礼をして、穏やかな表情を浮かべた榊原さんは、慣れた様子で周りをゆっくりと見回し口を開いた。
自社コンセプトを話す前に、会場の空気を和ませるように少しの笑いを誘う小噺を挟む。
クライアント側の人間も、他社の社員までも微笑んでしまうような語り口に、私も思わず頬を緩めた。
この前のプレゼンでも思った事だけれど、“さすがは榊原さん”といった感じ。
だけど隣のカンちゃんだけは、まるで監視でもするかのように、ジッと彼の姿を見据えたまま。
その様子を少し気にしながらも、前に向けられたままだった私の視線は――……
「それでは、こちらをご覧下さい」
スライドが映し出されたスクリーンを見て、凍りついた。
「我が社が提案させて頂くのは、博物館にいながら、まるで宇宙飛行士のような気分を味わえる――そんなカフェです」
何……これ。
だって、これは。
状況が掴めず呆然とする私の目の前のスクリーンに、鮮やかな緑の水草や、色とりどりの熱帯魚が泳ぐ球体の水槽が映し出される。
「壁は、黒もしくは濃紺のガラスを予定しております。その空間の至る所に、大小様々な球体を、まるで宇宙に浮かぶ惑星のようにあしらって――」
これは……私が考えた物だ。
それに画像だって、私が作った物に多少手を加えていたり、反転させた物ばかり。
世界には、数えきれないほど沢山の人がいるのだから、同じような物を作ろうと考える人だっているかもしれない。
だけど……。
「日和、一旦外に出るぞ」
これだけの類似は、あるはずがない。