恋するキミの、愛しい秘めごと
その表情の、本当の理由も知らずに……。
きっと自分がこんな事に巻き込んでしまったせいだと、そう思い込んでいた私はつい口にしてしまったんだ。
「あの……一つだけ、お伺いしても宜しいでしょうか?」
「あぁ、何かな?」
「高幡さんは、どうして他人である私や宮野さんの為にそこまでして下さるんですか?」
もちろん、カンちゃんが大事な教え子だから――というのも理由のひとつなのだろうけれど。
何故か、それだけじゃない気がしたんだ。
「自分がプロジェクトから外されてしまうかもしれないのに、どうして……」
私の質問がよっぽど意外な物だったのか、目を見開いたまましばらく停止していた高幡さんは、
「私はね、大切な物を奪われて、傷付く人を見るのが嫌なんだ」
自分なのか、他の“誰か”になのか……。
私には分からなかったけれど、まるで言い聞かせるみたいに穏やかな口調でそう告げた。
「ヒヨ、そろそろ時間だ」
「え? ……あ、」
本当は、彼の話の続きがすごく気になっていた。
けれど、いつの間にか部屋に差し込んでいた夕日にハッとする。
「すみません。すっかり長居してしまって……」
カンちゃんに促されて立ち上がると、高幡さんはまるで子供を見送る父親のような笑みを浮かべた。
「いや、いいんだよ。今度は宮野君と一緒に夜においで」
「え?」
夜に、ここに?
目を瞬かせる私とは対象的に、カンちゃんはその言葉に溜息を吐き、
「先生」
なぜか窘《たしな》めるような口調で、顔を顰めて彼を見る。
それにやれやれと首を竦める高幡さんの様子を見ると、二人はここで時々お酒でも飲んでいるのかもしれない。
本当に、親子みたいに微笑ましい二人のやり取り。
それを見てクスクスと笑い、「久々に実家に帰ろうかなー」なんて思いながら、高幡さんの家をあとにした。