恋するキミの、愛しい秘めごと
「部長と課長に報告に行って来るよ」
高幡さんの家を出てすぐ、いつものメガネをかけたカンちゃんは、オフィスに戻るなり宮野さん口調でそう告げた。
「私も行きます」
というか、むしろ私が行かないといけない。
行って、今回あった事を洗いざらい話して……然るべき処分を受けないといけない。
どんなものかは分からないけれど、きっと始末書では済まされない、何らかの処分を受ける事になるだろう。
私的な事情で社内の情報をライバル社に漏らすなんて、言語道断だ……。
けれどもカンちゃんは、一瞬考え込むような素振りを見せて、見上げる私に言ったんだ。
「先に報告しておきたい事があるんだ」
「え?」
その意味を理解するのに少し時間がかかったけれど、つまりは“私抜きで話したい”という事なのだろう。
「呼ぶまで仕事に戻っていて」
カンちゃんが何を考えているのかを読み取ろうと瞳をじっと見つめても、“宮野さん”の浮かべる穏やかな笑みのせいでそうすることも出来ずに、
「……わかりました」
瞳を伏せて一礼すると、モヤモヤした気持ちのまま自分のデスクに戻った。
椅子に座って、カバンの中からパソコンを取り出すと、今日の出来事が嫌でも頭に浮かんで頭を振った。
さっきから、カバンの外ポケットに入っている私用携帯が震えている。
――きっと榊原さんからの電話だろう……。
それに気が付いていながらも、まだ今日あった事を現実として受け入れきれていない私は、それを取りもせずに電源を落とした。
パソコンの電源を入れ、背もたれに寄りかかりながら深い溜息を吐く。
画面に浮かび上がったロゴマークを眺めながら、今日あった事は夢だったんじゃないかなんて……あきらめ悪く、馬鹿げたことを考えてみたり。
「どうしたの? デッカイ溜息吐いて」
「んー? 別にー」
どうやら一息ついていたらしい小夜の、のんびりとした声に少しホッとした。
「どうだった? 初プレゼンは?」
「……まぁ、色々と」
曖昧に言葉を濁す私とは対照的に、事情を知らない小夜は私の初仕事に興味津々な様子で体を乗り出してきて……。
「――南場さん、いいかな?」
「あ、はい。ごめん小夜、また後でね」
「はぁーい。いってらしゃい」
小夜の不満げな声を背で受けながら、丁度いいタイミングでミーティングルームから顔を出したカンちゃんの声がする方へと歩き出した。