恋するキミの、愛しい秘めごと
「失礼します」
ドアを開けて中に入ると、正面には部長と課長が並んで座っていた。
予想してはいたけれど……。
二人の険しい表情と部屋の重い空気に、握りしめた手に力が入る。
それでも逃げてはいけないと、ゆっくりと息を吐き出して二人を見据えた。
「宮野から大体の話は聞いたよ」
ゆっくりと口を開いたのは、部長だった。
「……はい。私の不注意でこのような事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げると、部屋はしんと静まり返って、その重圧に体が震えそうになる。
思えば、こんなにも大きなミスをしたのはこの会社に入ってから、初めての事かもしれない。
謝って済む問題ではないのはよくわかっていた。
それでもきちんと謝って、自分のしでかした事の重大さをきちんと受け止めたいと思ったんだ。
「取りあえず顔を上げなさい」
部長の言葉が聞こえた数秒後。
下げたままだった頭をゆっくり上げる。
「……はい」
クビになる事はないだろう。
だけど、降格……下手したら他部署への移動とか。
降格と言っても、たった1回昇給しただけの主任なんて肩書きじゃ補いきれないくらいの事を仕出かしてしまったんだけど……。
頭の中を巡る嫌な想像に、喉がゴクリと音を立てる。
けれど、吐き出す息が震えそうでお腹にグッと力を込める私に、部長は再び口を開き、予想とは裏腹な言葉を口にした。
「もうこんな事が絶対に起こらないように、資料の管理を徹底してくれ」
「はい」
「よし。じゃー、仕事に戻りなさい」
「……え?」
どういう事?
どうしてこんなに――。
「あ、あの」
「ん?」
「処分は……」
呆然としたままそう口にすると、部長は一瞬だけその瞳を伏せ、再び私を見つめると、
「今回の事は、私や宮野にも責任がある」
苦虫を噛み潰したような表情でそう告げた。
「ですが……」
横に立つカンちゃんに視線を移しても、それに従えと言うように小く頷くだけで。
何だか腑に落ちない。
もちろん、あんな大変なことをしてしまった私に対して何の処分が下されない事もそうなんだけど……。
何よりも気になるのは、まるで何かを隠しているかのような部長や課長、それにカンちゃんのあの様子だ。
けれどそれを言及出来る立場でもない私は、何も言い返すことが出来ずに。
「それと今回の事は、他言しないように。わかったらもう仕事に戻りなさい」
「……はい。本当に申し訳ありませんでした」
有無を言わせぬその態度にもう一度頭を下げると、悶々とした気持ちのままミーティングルームを後にした。