恋するキミの、愛しい秘めごと
あのプレゼンの日から、1週間が経った。
最初の日ほど頻回ではないけれど、未だに私の携帯には榊原さんから電話がかかってくる。
「はぁー……」
一人きりのカフェスペースで、また小さく震え出した携帯を眺めていた。
今更、何の話があるの?
恨めしげに手元を睨みつけると、それを感じと取ったかのように振動がピタッと止まる。
「どうしろって言うのよ」
一応、わずかな間でも“恋人同士”だった私と榊原さん。
けれど彼にとって、私という存在は、本当に“恋人”と呼べるものだったのだろうか。
もしも違うとしたら――。
……ううん、きっと違う。
だから彼は、あんな風に人の全てを奪っておきながら、何事もなかったかのように私の瞳を真っ直ぐ見つめ、新しい企画さえも潰しにかかる事が出来たんだ。
例えばこの電話が、用なしになった私への別れの言葉を告げるものだとしたら。
もういっその事、自然消滅ってやつで構わないんだけど。
それでも――そんな人でも、きちんとケジメを付ける為に会って別れるべきなのか。
丁度お昼時の今、榊原さんも休憩時間なのか、切れた携帯が再び震え出して、結局それにも出ることはないまま電源を落としてオフィスに戻った。
今夜、関東全域で天気が荒れるという予報のせいか、今日は自分のデスクで仕事をしながらお昼を取っている人が多く目につく。
ぐるりとフロアを見回しただけで、ざっと10人以上はサンドウィッチやおにぎりにかぶりつきながら、パソコンと睨めっこ状態だ。
私も早く終わらせて、さっさと帰ろう。
買ってきたコーヒーをデスクに置いて、パソコンを打ち始めると、思いのほか仕事がはかどって、雨が降り出す前には予定していたノルマをこなすことが出来た。