恋するキミの、愛しい秘めごと
それから、どこかで食事をしようかという榊原さんの誘いを断り、タクシーに乗り込んだ。
「――までお願いします」
行き先を告げられ、走り出したタクシーの窓からは、垂れ込める真っ黒な雨雲が見える。
「落ち着いて話したくて……。家でもよかった?」
「……はい」
きっと彼は、別の所がいいと言えばそうしてくれるだろう。
でも、いつ誰が聞いているかもわからない場所で、彼がしたことを話すわけにもいかないし、かと言って自分の家に呼ぶわけにもいかない。
そうなると、榊原さんの家というのが一番いい場所なのかもしれないと思った。
ゴロゴロと、雷鳴が小さく聞こえている。
そう言えば今夜は天気が荒れるんだった……。
ラジオも音楽もかかっていない車内はただ静かで、それっきり言葉を交わすことなくお互い窓の外を眺めていた。
流れる景色からネオンが消えて暗くなり、工業団地のオレンジの灯りが見え始める。
それを見ながら「榊原さんと別れたら、ロンドンに行かない限り、もうあの綺麗な球体も見られなくなるのか……」なんて思ったりして。
私はどれだけあの“夜の地球”に魅かれているんだと、思わず自嘲してしまった。