恋するキミの、愛しい秘めごと


「最近少し忙しくて」

困ったように笑う彼に通された部屋は、確かにいつもよりも少し汚れていた。

だけどやっぱり、あの球体の周りだけは綺麗に掃除されていて、榊原さんがそれをどれだけ大事にしているのかがよく分かる。


分かるから……自分と同じ感性を持つ彼の事が、やっぱり“好きだった”と思って――それが過去形である事に気がついた時、少しだけ胸が痛んだ。


「温かいコーヒーでいい?」

「お話を聞いたら、すぐに帰るので」

「……そっか。わかった」

首を振る私に向けられる茶色い瞳は、出逢った頃と変わらない。

優しくて、どこかホッとする瞳のままなのに……。


「どうしてあんな事をしたんですか?」

真っ直ぐ見つめてその言葉を口にすると、榊原さんは一瞬瞳を伏せて、

「あれは、君の為でもあったんだよ」

「私の……為?」

彼の口から聞かされた“理由”は、私には到底理解し難いものだった。


「この前の競合プレゼンは、出来レースだったんだよ」

「え?」

一瞬意味が理解出来ず、顔を顰めた私とは対照的に、榊原さんは穏やかな、笑みさえ浮かべているように見える表情でゆっくりとその続きを口にする。


「最近うちの会社、急に勢いを取り戻してると思わない?」

「……」

言われてみれば、カンちゃんもそんな話をしていた気がする。

でも、それがどう繋がるの?


「今ちょうど戦力を入れ替えてる途中で、会社自体が不安定でね。とにかく沢山、どんな小さな仕事でも取らないといけない感じなんだ」

「……」

「そういう時、一番手っ取り早く仕事を取る方法って何だか知ってる?」


その問いに小く首を振る。

すると榊原さんは、柔らかな笑み崩す事なく瞳を揺らす私の頬に掌をそっと添えて、

「お金と、強力なコネだよ」

表情にぴったりの穏やかな声で、そう告げた。


「……っ」

さっきから、頭がズキズキと痛む。

何だか、息も苦しいし――


「そんな顔しないで。だけど、世の中ってそんなもんでしょ?」


何だか視界が歪んで、キラキラと光る地球がどんどん霞んでいく。

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