恋するキミの、愛しい秘めごと

小さく呟いた言葉に、部屋がしんと静まり返る。

目の前の榊原さんは、私の言葉に息を呑んで……。

「帰ります」

動けずにいる彼に背中を向けて、ドアノブに手をかけた。


「待って」

「……やっ!!」

静かな声と同時に腕を取られ、抵抗する暇もなく強い力で後ろに引かれる。

「まだ話は終わってない」

榊原さんは、そのまま、まるで私を閉じ込めるように自分の腕の中に抱きすくめ、首筋に顔を埋めて唇を寄せた。


「やめて下さい!!」

柔らかい唇の感触と、そこに感じたチクンというわずかな痛み。

私を抱きしめる榊原さんの腕の力はすごく強くて、胸がドクドクと鼓動を速め出す。


「だって、こうしないと逃げるでしょう?」

それと同時に、うなじに再び痛みが走る。

「日和?」

「ど……して」

「え?」

「どうしてこんな事をするんですか?」


好きだったのに。

好きだったから、
これ以上嫌いになりたくなかったから。

だから最後に、もう一度だけ話がしたいと思ったのに。


それなのにあなたは、どうしてこんな風に、私の心に傷をつけるような事をするんだろう。


「好きだからだよ」

「……嘘です」

「嘘じゃないよ」


私の心は、今でさえこんなにもヒリヒリとして痛いのに。


「日和の時間を全部欲しいと思ったんだ」

「私の、時間……?」

「うちの会社においでよ。そしたらいつも一緒にいられる」

「……」

「それに日和が一緒にいたら、もっと大きな仕事が出来ると思うんだ」


やっぱりこの人が見ているのは“私自身”じゃないんだって……。

それをまざまざと思い知らせるようなこんな事を、どうしてするのだろう。

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