恋するキミの、愛しい秘めごと
「日和」
「ん……」
「そろそろ限界かも」
困ったように浮かべられた笑みに、彼の言葉の意味を理解した私は、その首に腕を絡めキスをせがむ。
目の前の瞳が優しく細められ、熱い息が唇にかかる。
ゆっくり、味わうように深く落とされたキスは、私の胸に甘い痺れを残してそのまま静かに離れていった。
「カンちゃん」
「うん?」
「……ううん。何でもない」
勘違いしちゃいけない。
私も、カンちゃんも……。
この関係は、今夜だけの関係で――明日からはまた、ただの“イトコ”に戻るんだから。
感情に任せて、口をついて出そうになった言葉を飲み込んで。
「痛かったら言って」
「――んん……っ」
一層強く抱きしめられながら、自分の体に沈みこむカンちゃんの熱に再び甘い声を漏らした。
熱い。
ゆっくりと体を揺らすカンちゃんの動きに合わせて、ベッドが軋んで音を立てる。
私の体を気遣いながら、決して自分本位にならない彼の愛し方に、胸が痛いくらいにしめつけられて……何故か切なくて、涙が零れた。
こういうのが“女の幸せ”というものなのかもしれない――なんて思いながらも、篠塚さんに対して申し訳ない気持ちが今更湧き出てくる。
カンちゃんは“頭の中を空っぽにして”と言っていたけれど、体が昂ぶっているせいか、自分がいつもよりも感情的になっている気がした。
榊原さんを思い出すと息苦しさを覚えるくらい胸が苦しくなって、申し訳ない気持ちがこみ上げる。
唯一心がホッとするのは、やっぱりカンちゃんの存在だけで。
だけど、頭の中でゴチャゴチャと考える時間は、そう長くは続かなかった。
「まだ余裕ありそうだね」
耳朶を甘噛みされながらそう囁かれ、思わず身を捩る。
閉じた瞼の上に、柔らかい感触を覚えて瞳を開くと、少し余裕がなさそうに息を弾ませるカンちゃんの表情が映り込んだ。
――ダメかもしれない。
私はやっぱり、カンちゃんの事が……。
再び頭を過った、ろくでもない考えに小さく首を振る。
そんなの都合が良すぎるでしょう。
カンちゃんを忘れたいと思っていた時に、榊原さんに出逢って、榊原さんから離れる事になった途端、またカンちゃんが好きだなんて。
そんなの、許されるはずがない。
「カン……ちゃん」
「ん」
「もっと、ぐちゃぐちゃにして」
「……っ」
愛さなくていいから、本当に何も考えなくて済むように、欲に任せて抱いてくれたら。
「カンちゃんの好きなようにして――」
その言葉に、私の中でカンちゃんの体が小さく反応して……。
「日和……っ」
愛おしそうに私の名前を呼びながら動きを速め、零れそうになる吐息を隠すように、鎖骨の上の白い肌に新しい紅いしるしを刻み込む。
耳元で聞こえるカンちゃんの苦しそうな息遣いに、こんな風に求めているのは私だけじゃないんだとホッとしながら。
急な動きに耐えられなくなった私は、甘い声を押し殺す事もせず、背中に回した腕に力を込めてキスを求め、溺れるようにカンちゃんの熱を受け止めた――……。