恋するキミの、愛しい秘めごと
「一緒に住む上で、4つ約束をしよう」
「……はい」
荷物を全て受け取り、爽やかな引っ越し屋さんの差し出した書類にサインをして。
まだどこか腑に落ちないままリビングのソファーに座り込む私の前に、カンちゃんが立てた4本の指を差し出した。
「1、家事と共有スペースの掃除は当番制で、自分のエリアの掃除は自分でする」
「はい」
「2、お互いの彼女、彼氏は連れ込まない」
「……」
「不満?」
――不満というか。
「彼氏いない」
不貞腐れてそう言えば、「ドンマイ。ちなみに俺はいるけどね」とカンちゃんは何故か勝ち誇ったように頷く。
どうでもいいわと突っ込みたいけど、それも面倒だからとスルーした。
――だけど、この後。
そんな大人な私に、カンちゃんは最後にここ数年で一番じゃないかと思えるほど驚く一言を言い放った。
「3、会社では俺たちがイトコ同士って事も、一緒に住んでる事も秘密にすること」
「……は?」
秘密もなにも、お互いの会社に知られたところで特に問題はないんじゃ……。
「総務に若い奴居ないし、あれだけ大人数ならそう簡単にバレないだろ」
「あの、」
「だから、ヒヨは普通にここの住所書いて書類提出していいから」
「いや、え?」
「あとはとにかく、ヒヨが俺のグループに配属されない事を祈るのみだな」
「……」
ちょっと待って。
まさかとは思うけど。
「カ、カンちゃん」
「なに?」
「つかぬ事をお聞きしますが……」
「はぁ」
「カンちゃんって……どちらにお勤めですか?」
もう殆ど“神様お願い!”レベルだった。
どうか私の予想が外れていますように、と神にも縋る気持ちでそう訊ねた私の想いはーー
「ハナビシ・フューチャー・リノベイション 新規事業部 企画開発課」
カンちゃんのその一言で、粉々に打ち砕かれたのだった。
「で、4つめは……って、何でお前涙目なの?」
「ううん。もういいの、どうでも……」
ガックリと項垂れる私に、小首を傾げるカンちゃん。
「本当にもういいから。ほら、4つめのお約束は?」
「あー……」
私に向けていた瞳を一瞬天井に向け、何故かピタリと動きを止めて、
「やっぱ3つでいいや」
と、何とも歯切れの悪い言葉を口にする。
尻切れとんぼな私は、涙目のまま思わず眉根を寄せたけれど、面倒な約束は少ないに越したことはない。
だからそれ以上追求することはせず、カンちゃんの「守れる?」という問いに素直にうなずいた。