恋するキミの、愛しい秘めごと
外がだいぶ暗くなった頃。
会社に戻り、机にカバンを置くや否や、隣の席の小夜が「待ってました」とばかりにその体を寄せてきた。
「ちょっと日和、聞いた!?」
「何をー?」
相変わらず主語のない彼女の話に適当な相槌を打ちながら、パソコンを立ち上げる。
「さっき人事部に行って来たんだけど、今月からイギリス支社に出向する人集めるらしいよ」
「……へぇー」
全く、みんなイギリス、イギリスって。
私のアンニュイな様子になんて気づくはずもない小夜は、その後も「営業部の半沢さんが行くかもしれない」だの、「うちの部の小林君が行きたがっていた」だの……。
大好物の噂話を、自分的考察を交えながら話し続けた。
それに、適当な相槌を打っていたのだけれど……。
「そう言えば、向こうは宮野さんをご所望らしいよー」
「え?」
最後に発せられた一言に、思わず停止してしまう。
「あくまでウワサなんだけどね。まぁ、宮野さんほど仕事が出来れば、どこだって欲しがるでしょ」
「……確かにね」
それから小夜は、人をこんなにも動揺させておいて、言いたい事だけ言い終わると、さっさと仕事に戻っていった。
「……」
カンちゃんがイギリスに……?
いや、そんな話は全く聞いてないし。
小夜の話が事実だったとしても、あくまで“向こうがご所望している”だけの話。
だから気にしなくていいはずなんだけど……。
今日はきっと、高幡さんの事があったから尚更なんだ。
人が離れて行ってしまうという事に、すごく過敏になってしまっていた。