恋するキミの、愛しい秘めごと
「ねー、カンちゃん?」
「んー?」
家に帰ってゴハンを食べて、私よりも遅くに帰宅したカンちゃんの隣に腰を下ろし声をかける。
「カンちゃん、イギリス支社行くの?」
正面にあるテレビでは、相変わらずカッコいい向井君のドラマが流れていて、それに目を向けたまま今日の小夜の話の真相をカンちゃんに訊ねてみた。
するとカンちゃんは、雑誌に落としていた視線を上げて、
「……は?」
“心底意味が解らない”という感じの言葉を私に浴びせた。
「話もないし、行かねーし」
「ホント?」
「つーか俺、英語喋れないし」
「“向井君”変えていい?」なんて言いながらリモコンを持ったカンちゃんの手からそれを奪い取り、再び視線を前に向ける。
「……」
本当は知ってるんだから。
カンちゃんがTOEICで800点越えしてることくらい。
まぁ、私は820点越えてるけどね――なんて、そんな事はどうでもいいんだけど。
とにかくイギリスには行かないらしいカンちゃんに、ホッと胸を撫で下ろす。
だって、もしカンちゃんがここからいなくなってしまったら……。
恋愛関係じゃないけれど、それはやっぱり悲しいし。
仕事でも、プライベートでも……。
“ただのイトコ”として、彼がいなくなる事を寂しいと思う事くらいは別にいいんだよね?
「そういや、高幡先生何だって?」
「あー……。直接聞いて」
「何だそれ。何気に気になるんですけど」
カンちゃんとこんな関係になってから、知った事が一つある。
――“好きな人”と“大切な人”。
その間にある、してもいい行動と、してはいけない行動。
抱いてもいい感情と、抱いてはいけない感情。
その線引きが、意外と難しいという事に気が付いた。
カンちゃんが、私の押し込めた気持ちに気が付いているのかどうかは知らないけれど……。
その気持ちを、一生外に出す気がないのであれば、それが彼に一切伝わる事がないように。
けれど、今までみたいに“仲のいいイトコ”という関係は壊さない程度に仲良く……。
きちんとした線引きをしないといけないんだ。