恋するキミの、愛しい秘めごと
仕事は良好。
カンちゃんとの関係だって悪くない。
震えるほどの感動もなければ、波乱もない。
けれど、ここ数ヶ月のバタバタで、平穏な毎日というものが、どれほど幸せなものなのかを思い知らされていた。
起きて、着替えてお化粧をして、朝ごはんを食べて仕事に向かう。
いかに効率的に仕事を進めるかを考えて、可能な限りリフレッシュ出来る時間を作る。
お昼には、ランチをしながら小夜の新しく出来た彼氏の惚気話なんかを聞いたりして。
家に帰ったら、時間が合えばカンちゃんとゴハンを食べて、コーヒーを飲んで、お風呂に入って眠りにつく。
それから最近は、高幡さんの荷造りのお手伝いなんかも時々している。
知らぬ間に、彼が自分とカンちゃんのお祖父ちゃんのような存在になっていて、何となく淋しくて、放っておけないのだ。
「今度は夜に来るといい」
高幡さんはそう言って、初めてあの家を訪れた時と同じように、私をお酒の席であろうその場に誘おうとする。
それをいつものようにカンちゃんが叱りつけて、高幡さんはつまらなそうに不貞腐れて。
そんな時間が、私はすごく好きだった。
「俺もちょっと部屋の整理しようかなぁ」
高幡さんの家からの帰り道。
高幡さんの前で、私に散々「部屋が汚い」と言われたカンちゃんが、不貞腐れたようにそんな話をし始める。
「そうだね。その方がいいかもね」
笑いながら前を歩く私の頭を、通り過ぎがてらベシッと叩いて「ムカつく」って笑って。
家に帰ると、本当に自分の部屋の片付けを始めたカンちゃんがおかしくて、思わず笑ってしまった。
「カンちゃんって、実はすごい負けず嫌いだよね」
「うっせ! 手伝わないならあっちで“向井君”でも見とけ!」
「……」
柔らかい、お日様みたいなカンちゃんの香り。
「どうした?」
「ううん。何でもない」
もうあの日ほど、それを強く感じる事はないけれど……。
大丈夫。
私とカンちゃんは、きっとこれからも上手くやっていける。
少しの切なさを抱えながらも、このまま全てが上手くいく気さえしていた。
――だけど。
平穏な日々が脆くも崩れ落ちるのは、本当に突然なのだ。
それは、高幡さんがイギリスに渡る半月前。
意外なところから、私はその事実を知る事となった……。