恋するキミの、愛しい秘めごと
私の表情から何かを感じ取ったのか、榊原さんはそれまでの笑顔を真剣な物に変え、真っ直ぐに私を見据えながら言葉の続きを待っている。
その視線に少しの気まずさを覚えながらも、
「榊原さん」
「うん」
「あの“地球”を考えたのは、宮野さんですか?」
その瞳を見つめ返し、核心を突く言葉を口にした。
けれど、榊原さんは表情を特に変えることなく、相変わらず私の瞳を見つめまま。
「誰がそんな事を?」
「……」
「宮野――ではないか」
フッと浮かべた笑みは、どこかその言葉の対象であるカンちゃんをバカにするような笑みで、私の心の中に嫌な漣《さざなみ》を立てる。
「それで、日和は誰かからそれを聞いて、事実だと思った?」
「……わかりません。だから、会いに来ました」
きっとあの競合プレゼンでの一件がなかったら、“質の悪い噂”だと思っていただろう。
だけど目の前のこの人は、実際に私の企画を盗み、それどころか「自分と一緒に働こう」なんて事を平然と言ってのけるのだ。
「その顔は、ほぼ黒だと思ってる顔だね」
コーヒーカップに手を伸ばしながらクスッと笑う榊原さん。
この人はこんなに、感情の読めない人だった?
だけど違ったんだ。
そうじゃなかった。
“感情が読めない”んじゃなくて……
「宮野はね、あれをたった一人の為に表にも出さず、しまい込んでおこうとしたんだ」
「え?」
「“あれを出せば、絶対にいける”って、俺がいくら言っても絶対に首を縦に振らなかった」
「……」
「だから俺が、代わりに出したんだよ」
“感情がない”のかもしれない、と思った。
彼本人に、申し訳ない事をしたとか、自分がよくない事をしているとか、そいう感情自体がないのかもしれない。
だからこんな風に、笑って……。
「だけどね、宮野にとっては、あれでよかったんじゃないかな?」
「どういう……意味ですか?」
胸がチリチリと痛む。
心臓はドクドクと嫌な音を立てていて、心を落ち着けようとコーヒーカップに手を伸ばした私は、彼の口から次に発せられた言葉に動きを止めた。
「宮野はね、そんな事で部署内でトップだった俺のグループから抜けたんだ」
「……」
「で、自分で立ち上げた他の企画で“ベストプランナー・オブ・ザ・イヤー”獲っちゃったんだもん」
さっきまで聞こえていた、店内にかかるBGMも、他のお客さんのザワザワとした話し声も、気付けば聞こえなくなっていた。
ただ、握りしめた手が小刻みに震え出して、
「結局宮野はさ、隠し持ってたんだよ。もっといいプランをね」
「……っ」
その一言に、悔しくて悲しくて――涙が零れた。
「日和?」
許せなかった。
私の企画を盗んだ事なんかより、もっともっと。
「日和、どうし――」
「カンちゃんは……っ」
こんな風にカンちゃんをバカする彼が、心の底から許せなかった。