恋するキミの、愛しい秘めごと
「カンちゃんは、あなたに大切な物を盗まれて、苦しくて」
「……」
「それでも……っ」
頭の中では、あの日――榊原さんに企画を盗まれた事を知った日に、カンちゃんが私に言ってくれた言葉がグルグル回っていた。
『ヒヨ、責めてるんじゃないから泣くな』
『俺は、ヒヨのことを信じてる』
『ここで逃げたら後悔するぞ』
カンちゃんはあの言葉達を、一体どんな気持ちで口にしていたのだろう。
自分の昔と私の姿を重ねながら、私の中の痛みをどうしたら消し去る事が出来るんだろうって……きっと、そんな事ばかり考えていたはず。
「あなたには、カンちゃんの気持ちは一生わからない」
睨みつけるようにしてそう言い放ち、テーブルに合鍵を置いて席を立った。
けれど榊原さんは、その私の手を掴んで引くと、じっと私の顔を見上げて言ったんだ。
「“カンちゃん”」
「……っ」
「宮野……完治か。どうして今まで気が付かなかったんだろう」
まるで頭の中でパズルを組み立てていくように、ポツリポツリと呟く彼は、一瞬ピタリとその動きを止めて目を見開く。
――そして。
「“ヒヨ”」
「――え?」
「あぁ、やっぱりそうか。……あはははっ!」
本当に突然だった。
何かに納得したように小さく頷いた榊原さんは、何がおかしいのか、突然声を上げて笑い始めて……。
私は何が起きているかも分からずに、ただ呆然とその様子を眺めていた。
「ねー、日和。昔の俺と宮野の話を日和が知って、宮野は何て言ってた?」
本当に、一体どうしたというのだろう。
榊原さんの様子に戸惑いながらも、私は彼の言葉の裏に隠された“何か”が引っかかって。
促されるように口を開く。
「……宮野さんは、まだ私が知った事は知りません」
「俺の所に先に来たって事?」
「はい」
この人は、一体何を知っているのだろうか。
何故そんな事を……。
「それはどうして?」
それまでとは違う、射抜くような鋭い瞳にゴクリと唾を飲み、
「宮野さんは、私を傷付けないように、本当の事を話さないと思ったからです。それに――」
「それに?」
「榊原さんの口から、本当の事が聞きたかったんです」
震える声で、言葉を紡いだ。