恋するキミの、愛しい秘めごと

「俺は、君のそういう所が好きだった」

私の一言に、ポツリと呟く榊原さんの瞳が震えた気がした。


「……榊原さん?」

「いや、日和はやっぱり賢いよ」

けれど、一瞬でそれを自嘲するような笑みに変える彼の心は、やっぱり読むことが出来そうにない。


「宮野はきっと、事実は語らない――というか、“語れない”よ」

「……」

「だから俺が、教えてあげる」


その先の言葉を、聞いてはいけない気がした。

だから私は、小さく首を振ったのに。


榊原さんはそんな事を気にも留めずに、「聞いておいて損はないと思うから」と笑いながら、再び口を開いて、

「あの“地球”は、宮野が君に贈るために作った物なんだよ」

まるで世間話をするみたいにそう告げた。


「――え?」


例えるなら、空気のない空間に放り出されたみたいに。

息を吸い込む事が出来なくなった私の耳が、キーンと嫌な音を立てている。

すっかり音のなくなった世界に唯一響くのは、榊原さんの静かな声。


だけど、その口から語られる言葉の意味が、私には……分からない。


立ち上がったまま、動けなくなってしまった私の手首を榊原さんが掴み、隣の席にストンと座らせた。


「――“ヒヨ”」

「……っ」

「君の名前は、宮野からよく聞いてたよ」


何だろう。

すごく喉が渇いている。

それに、頭が少し痛い……。


「俺もね、今さっき君の存在に気が付いたから、まだ頭の中が整理しきれていないけど。予想はきっと、十中八九当たってる」


榊原さんの言うことが信用出来るという保障なんてどこにもない。

むしろ、信用できなくて当たり前なのに……。


「前に話してた“女装癖のある彼氏”、付き合いだしたのって20歳の時から?」

「どうして……」

確かに彼と付き合い始めたのは、成人式の少し前――20歳で付き合い始めて、21歳の冬に別れた。


だけど、どうしてそれを榊原さんが知っているの?


思わず眉根を寄せた私に、榊原さんは表情を変えずに「わかりやすいね」と微笑んで、


「俺はそれを、宮野から聞いたからね」


まるで焦らすように、徐々に核心に迫るような思わせぶりな話し方をする。

< 162 / 249 >

この作品をシェア

pagetop