恋するキミの、愛しい秘めごと
「こう見えて俺と宮野は、“仲良しさん”だったんだ」
おどけたような、そんな言葉から始まったカンちゃんと榊原さんの昔の話。
カンちゃんが新入社員として会社に入った時、2期上だった榊原さんが新人研修の担当だったという話は、カンちゃん自身からも聞いていた。
「毎日一緒に仕事をしているうちに、“何かこいつは、自分と似てる気がする”って思い始めてさ」
「……」
「仕事の後、毎日のように一緒に夕飯を食いながら、飲むようになってた」
――それならどうして、カンちゃんの物を盗るような事をしたの?
その言葉を飲み込んでしまうのは、隣に座る榊原さんの表情のせいかもしれない。
少しずつ少しずつ、感情の読めなかった瞳に色が差し込み始めた気がした。
「その時に、宮野はよく“ヒヨ”ちゃんの話をしていた。『コロコロ表情が変わる、可愛くないイトコがいる』って」
――可愛くないイトコ、ですか。
思わず眉間に皺を寄せた私を見て、榊原さんは「そんな顔しないで」とクスクス笑って話を続ける。
「『でも凄く感情豊かで、一緒にいるといつの間にか自分まで感化されて、巻き込まれて……バカみたいに笑えるんですよ』って。それって、すごい愛情を感じる言葉だと思わない?」
「……」
脳裏に、いつも人のことをからかってバカにして、だけどどこまでも優しいカンちゃんの笑顔が浮かんだ。
昔のカンちゃんが言っていたらしいその言葉が本物だとしたら、私はそれをカンちゃんにそっくりそのまま返してやりたい。
だって、いつもバカみたいに笑わせてもらっていたのは、私なのに……。
カンちゃんの言葉に、胸がぎゅっとしめつけられて、何だか泣いてしまいそうだ。
俯く私の頭の天辺に、榊原さんの視線を感じる。
ちゃんと顔を上げないとと思うけれど……こんな顔を、榊原さんに見せるわけにはいかないから。
小さく息を吐き出して、心を鎮めるように、すっかり冷めてしまったコーヒーを口にした。
「宮野は昼休みなんかに、時々机の上でよく分からない作業をしている事があった。それで――」
そこで一旦言葉を途切れさせた榊原さんから、少し緊張したように息が吐き出されて。
「あいつが席を立っている時に、たまたま見かけたんだ」
「……」
「あの“地球”の設計図と、プログラミングのソースコードを」