恋するキミの、愛しい秘めごと
「それは何だ」と尋ねた榊原さんに、カンちゃんは完成図にあたる3D画像を見せ、「趣味の遊びだ」と答えて笑ったらしい。
だけど……。
「それを見つけた瞬間、体が震えたんだ。『こんな偶然があるのだろうか』ってね」
「……どういう意味ですか?」
「俺はあの“地球”を、もっと前から知っていた」
――“もっと前から”?
あれはカンちゃんが作った物だと言ったのは、榊原さんのはずなのに。
混乱する私の表情を見て、再び口を開いた榊原さんの言葉は、全ての始まりを語るものだった。
「宮野はあれの大元になる物を、大学2年の時に既に作り上げていたんだ」
「……」
「高幡先生の研究室の名前で、小さな設計作品展に出されていたそれを、大学4年生だった俺は憧れにも似た気持ちを抱きながら見ていたんだよ」
“人をワクワクさせる空間が作りたい”
榊原さんの言葉に、一緒にみなとみらいらに行った日の彼の表情が蘇る。
「あんなに小さな物に、宇宙が詰まってる。それは物凄く美しくて、物凄く衝撃的な物だった」
「……」
「最初は、それを作った宮野と仕事が出来る事を嬉しく思ったんだ。だけど――」
徐々に頭角を現すカンちゃんの仕事ぶりが、周りに評価され始めた。
「あいつは人に媚びる事をしない。だけどそれを十分補えるくらい、仕事で人の心を惹きつける」
コネを作りながら仕事をして、散々先輩ヅラしていた自分が酷く滑稽に思えてさ――榊原さんはそう言って、瞳を伏せながらニセモノの柔らかい笑みを浮かべる。
自分なんかとは比べ物にならない才覚の持ち主だと思っていた相手を、知らぬ間に自分のグループに引き込んでしまった榊原さん。
抱いていた憧れは……いつしか、嫉妬に変わっていた。
「それなら、それを利用しようと思った」
いつの間にか私に向けられていた視線は、本当に真っ直ぐで、
「宮野の“地球”を、自分のチームの物として外に出そうと思ったんだ」
きっと今話している事は、彼の中の真実なのだろうと思えた。
「だけど宮野は“これは個人的な、ただのプレゼントだから”なんてバカみたいな事を言って、俺の提案をその場で却下した」
もしも榊原さんの言っている事が、全て本当だとしたら……。
「そうだよ。あれは、君だけの為に作られた物だった」
「……っ」