恋するキミの、愛しい秘めごと
そして榊原さんは、「日和」と優しい声で私の名前を呼んで……。
「宮野はね、ずっと君のことが好きだったんだ」
伸ばした指で私の髪を撫でながら、静かにそう告げた。
「今だってきっと――」
「榊原さん」
彼の言葉を遮るように声を上げると、榊原さんは一瞬驚いたような表情を見せる。
でも、そんな事を聞いたって仕方がないから。
昔のカンちゃんの気持ちは今更わかり得ないけれど、今のカンちゃんには……。
「それは、あり得ません」
「どうして?」
「カンちゃんには、彼女がいますから」
自分で口にしたその言葉に胸が痛んだのは、知らなかったカンちゃんの想いを今頃になって知ってしまったからだ。
カンちゃんと一緒に暮らすようになって、カンちゃんへの気持ちに気が付いて。
それでも榊原さんを好きになって、その気持ちを捨てたのは私なのだから。
こんなことで胸を痛めるなんて、本当に“今更何を”って話だ。
それに、もしもあの頃の私がカンちゃんの気持ちを知ったとしても……きっとその気持ちには応えられずに、お互いの関係がギクシャクしてしまっていただけ。
だから、これでいいんだ。
このままカンちゃんとは、ただのイトコのままで……。
――だけど。
上辺だけの決意を打ち砕くのは容易《たやす》く、いとも簡単だ。
「もしもその“彼女”が篠塚 冴子だとしたら、」
「え?」
「宮野は救いようのないお人好しだ」
なぜ榊原さんが、カンちゃんの彼女が篠塚さんである事を知っているのか。
どうして……見ているこっちが切なくなるような、そんな顔をしているのか。
戸惑いを隠せない私に、榊原さんは言ったんだ。
「ねえ、日和。本当のことが知りたくない?」
「……っ」
“本当のこと”って、何?
覗き込むような視線から目を逸らし、動揺を覚られないように静かに息を飲んだ。