恋するキミの、愛しい秘めごと
「宮野はきっと、冴子が好きだったわけじゃない。だけど全てを知っていたから傍にいた」
「……」
カンちゃんは昔から変わらないね。
「一人でいられなかった冴子に“傍にいて欲しい”って泣きつかれて、断れなかったんだ」
普段は周りなんてどうでもいいって感じなのに、本当は人の痛みに誰よりも敏感なんだよね。
「仕事にプライベートは持ち込まなくても、プライベートに仕事は持ち込む。あいつはお人好しすぎる」
榊原さんの言いたい事は分かった。
だけど、たとえそれが事実であったとしても、当人同士にしかわからない感情というものがある。
私は話を聞きながら、少し前のカンちゃんの言葉を思い出していた。
それは私がカンちゃんに篠塚さんの良いところを聞いた時の話。
“どこがいいの?”と訊ねた私に、カンちゃんは笑いながら――“人間なんだから、それなりにいいところも可愛らしいところもあるんじゃねーの?”――そう答えたのだ。
「榊原さん」
「ん?」
「カンちゃんは、確かにお人好しです。だけど、同情だけで好きでもない人と何年も一緒にいるような人ではないと思うんです」
「……」
テリトリーがどうだこうだと言って、お互いの家を行き来しなかったり、不思議なところはあるけれど、それでも……。
「始まりがどうだったかは分かりません。でも今まだ一緒にいるという事は、お互いにそれなりの感情があるという事なんじゃないでしょうか」
あのカンちゃんの顔をみてしまったら、そう思わずにはいられない。
榊原さんは、それに「そっか」と小さく呟いて。
それからお互いに口を開くこともなく、すっかり暗くなった窓の外を、ぼんやりと眺めていた。