恋するキミの、愛しい秘めごと
榊原さんが立ち去った後、私は動くことが出来ずに、しばらくその場に座り込んでいた。
「帰らなきゃ……」
小さく呟き、テーブルに置いたままだった携帯を手に取り鞄にしまう。
お店の外に出ると、空は晴れ渡っていて、たくさんの星がキラキラと輝いていた。
タクシーを拾ってしまおうかとも思ったけれど、きっと全てを把握しているであろうカンちゃんと何を話せばいいのか整理しきれずに。
暗い夜道を1人ポテポテと歩いて帰った。
電車に乗り、恵比寿駅の西口を出て、騒がしい雑踏の中を再び歩く。
「……」
そして裏道に入った所で、足を止めた。
あぁ、どうしよう。
頭の中はまだグチャグチャだし、何から話すかも決めていないのに。
でも、そんな事よりも――……。
「お帰り」
「うん……っ」
逢えた事が嬉しかった。
彼がそこにいて、いつもの笑顔を見せてくれた事がすごく嬉しかった。
「何もされてない?」
「……ん」
「つーかさ、何でまた2人で会ってんだよ」
「ごめん」
涙をボロボロと零しながらその黒目がちな瞳を見上げると、彼は笑顔を一変させて苦笑しながら頭を掻いて。
「話、どこまで聞いた?」
そっと伸ばした手で私を抱き寄せながら、静かに訊ねた。
「……」
あの話は、一体“どこまで”なのだろう。
耳元で聞こえるカンちゃんの少し速い鼓動と、私よりも高い体温にホッとしながら瞳を閉じて考える。
あれが榊原さんの知っている全てだとして、それはカンちゃんの中の“全て”のどの程度の割合の話なのだろう。
「ヒヨ?」
「……うん」
よくわからないけれど、それでもカンちゃんが昔私に抱いていた感情は知ってしまった。
私は、何と答えればいいのか。
言葉に詰まる私の顔をカンちゃんはスッと覗き込で、きっと表情から全てを覚ったのだろう。
フーッと細く、長い息を吐き出して。
「取りあえず帰ろう」
そう言いながら、大きくて温かい手で私の手を掴み歩き出す。
少し前を歩く彼は、まだスーツを着たまま。
時計を見ると、もう夜中の0時を過ぎていた。