恋するキミの、愛しい秘めごと
家に着くと、カンちゃんに促されてシャワーを浴びて、お互い着替えてソファーに腰掛けた。
私がシャワーを浴びている間に点けられていたテレビでは、お笑い番組が放送されていて、静かな部屋にワザとらしい笑い声が響く。
私もカンちゃんも、それを観ているわけではなかった。
ただお互いに、テレビを眺めながら何から話せばいいのかを考えていたのだと思う。
けれど考えれば考える程、何を話しても“今更”なんじゃないかと思えて仕方が無い。
榊原さんとカンちゃんの間にあった事は、私かどうこう言う問題ではないし、言ったところでどうしようもない。
私と榊原さんの事はビジネスの上の問題もあって、カンちゃんも関わってはいるけれど、それだって今更だ。
篠塚さんとカンちゃんと榊原さんの関係だって、言ってしまえば私の関わる問題じゃない。
それに、カンちゃんの昔の想いだって――……。
そう思うとやっぱり何も言えなくて、膝を抱えてテレビをボーっと見つめていた。
カンちゃんもカンちゃんで、何か考え込むように胡坐をかいたまま視線を天井に向けていて。
徐にその口を開いたのは、テレビ画面がニュースに切り替わった頃だった。
「ヒヨ」
「うん?」
「あのさー……」
そこでまた言葉を途切れさせたカンちゃんに視線を向けると、下を向いてまた何かを考え込むように前髪をクシャリと握っている。
そして長い息を吐き出すと、
「ごめん。何かまとまんないから、明日話すわ」
そう言って見上げる私に困ったような笑みを向け、まだ濡れたままの私の髪をクシャクシャと撫でて立ち上がった。
私も私で、「ごめんな」ともう一度謝って部屋を出ていくカンちゃんに声をかけることが出来ずに……。
「おやすみ」と一言だけ口にして、その背中を見送った。