恋するキミの、愛しい秘めごと


結局仕事も手に着かず、早めに家に帰ると、廊下の先のリビングの電気が点いていた。

足元には、カンちゃんのスニーカー。

今日に限って革靴を下駄箱にしまって出かけていた理由は何?


「……ただいま」

「おー、お帰り」

何となく、そーっと開けたドアの向こうには、まるで何事もなかったかのようにキッチンに立つカンちゃんの姿があった。


「早かったな」

「……まぁ、そうだねぇ」

誰のせいだと言いたい気持ちを押し殺して、ジッとその顔を見上げる。

するとカンちゃんは、少し困ったように笑い、「取りあえずメシが先な」と言って私に着替えをしてくるように促した。


「……」

部屋に戻って着替えをしている間も、胸のモヤモヤは取れなくて、むしろ変な緊張感が増してちょっと気持ちが悪いくらい。

昨日の夜、「明日話す」と言って自室に戻ってしまったカンちゃんは、今日急に会社を休んで地元に戻っていた。

お母さんの話だと、特に変わった様子もなく、ただ世間話と私のバカ話をして帰って行ったという。


こっちはずっと心配していたのに、帰って来たらキッチンで鼻歌まじりにゴハンを作ってるし。


「……ホント意味わかんない」

溜息を吐きながらも兎に角着替えを終わらせて、スーツをハンガーにかけて部屋を出た。


再びリビングに戻ると、テーブルの上には美味しそうなロールキャベツが並べられていて……。

本当に一体何なのか。


突っ込みたいところは沢山あるはずなのに、「取りあえずメシが先」というカンちゃんの言葉から、カンちゃんなりの覚悟みたいなものを感じてしまったから……。

だから何も言えずに、大人しく席についた。
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