恋するキミの、愛しい秘めごと
「ねえ、これすごく見づらい」
「す、すみません。すぐ作り直します」
カンちゃんがいなくなってから、2週間が経った。
「あとさ、ここの言い回し、もっといいのあるんじゃないの?」
「た、例えば……」
「自分で考えなさいよ」
一緒に仕事をするようになって改めて思ったのだが、篠塚さんという人は本当に気が強くて恐ろしい。
だけど――
「南場さん、何がいい?」
「は、はい?」
「休憩してくるから。飲み物何がいいかって聞いてるの」
それ以上に優しくてカッコいい。
仕事中は本当に鬼のようで、最初の一週間は話しかけられる度にビクビクしていた。
けれどやっぱりこの人は、カンちゃんの彼女で……。
「南場さん、ちょっと意見聞かせ欲しいんだけど」
「あ、はい」
「南場さんくらいの女の子が、ショップのノベルティーで貰って嬉しい物って何?」
「んー……。ありがちなのはエコバッグとかコスメポーチとかですけど。あ、ミスト美顔器をもらった時は結構嬉しかったですね」
「美顔器っていいかも。使えそうだったら使ってもいい?」
「勿論です!」
「ありがとう」
どことなく、彼と似た空気を持っている。
「……いえ。すみません、ちょっと休憩入れます」
それにどこかホッとして、ほんの少しだけ切なくなってしまう、困った自分。
お気に入りのカフェスペースから見える空は、今日も真っ青で、溜息が出るくらい。
何だか無性に甘い物が飲みたくなって、ココアを買ってソファーに座った。
「はぁー……」
篠塚さんは、淋しくないのかな?
遠距離恋愛というものを経験したことがない私にとって、彼氏が外国にいるという感覚が解らないけれど、篠塚さんを見ていると本当に“今まで通り”。
淋しさを隠しているのか、それともこれが素の姿なのか。
付き合いの浅い私にはそれを見抜く事は出来ないけれど、それでも居場所さえ知らない私とは違って、篠塚さんはカンちゃんに会いに行くことが出来る。
彼氏と彼女であれは、何も気にすることなく電話だって出来る。
それだけでも、私とはえらい違いなのは確かだよね……。
そんなことばかり考えて、揺り返す淋しさに耐えていたある夜――私は意外な人物の口から、カンちゃんの行き先を知ることになった。