恋するキミの、愛しい秘めごと
「ジャンヌ君」
出先から直帰する途中、気晴らしに寄ったミッドタウンで、後ろから声をかけられ慌てて振り返った。
「高幡さん!」
そこに立っていたのは、渡英を数日後に控えた高幡さんだった。
「久しぶりだね。……元気だったかい?」
少し困ったような笑みを浮かべた彼は、両手に下げた買い物袋をガサガサとさせていて、私はその姿に微笑みながら「はい」と返事をして手を伸ばした。
「半分お持ちしますよ」
「ああ、それは助かるよ。実はもう、手がもげそうだったんだ」
そう言いながらも一番軽そうな袋を差し出す彼に、心が温かくなる。
荷造りがあらかた済んでからは、なかなか顔が出せなくて……。
向こうに行ってしまう前にもう一度会いたいと思っていた彼に、まさかこんな所で会えるとは。
聞けばイギリスの知り合いにお土産を頼まれてしまって、仕方なく色んなお店を梯子していたとか。
「こんな所にいるなんて、意外だっただろう?」
「えっと、まぁ……そうですね」
「私だって、お洒落な街で買い物くらいするんだよ」
そう言って悪戯っ子のように笑う彼は、本当に可愛らしいオジイ様だ。
それからもう1か所だけお店に寄って買い物を済ませた彼に、家までお送る旨を伝えると、「それなら、最後にうちで一緒に食事でもしないかい?」というお誘いを受けた。
“最後”という言葉に淋しさを覚えながらも笑顔で頷いて、調理器具がなくても作る事が出来る少しの食材とお惣菜を買って駅に向かった。