恋するキミの、愛しい秘めごと
「宮野君からは、何も聞いていないのかい?」
その声はすごく穏やかなはずなのに、私の心臓を鷲摑みにするくらいの強い破壊力を持つ。
「……はい」
「そうか」
何とか絞り出した声は掠れていて、それに反応するかのように高幡さんの表情も曇ってしまった。
高幡さんは、きっと知っているんだ。
カンちゃんがどこに、何をしに行ったのか。
ううん。
“すまなかったね”――そう言った彼は、きっとカンちゃんの今回の事と、何らかの関わりを持っているに違いない。
「ジャンヌ君」
「はい」
「宮野君は今、イギリスにいる」
――イギリス。
まさかこんな所で、この人の口から彼の居場所を聞く事になるなんて思ってもいなかった私は、何を言ったらいいのか分からずに、
「私が彼に、来てくれないかとお願いしたんだ」
どこか悲しそうに微笑む高幡さんの表情を、ただじっと見つめていた。
「宮野君は今、私が働く事になっている博物館にいる」
「……」
「前に、私には夢があると話した事があっただろう?」
「はい」
それは、高幡さんがイギリスに行くために、一緒にするはずだった仕事を外れたという話を聞いた時。
彼は確かに――「ずっとやりたいと思っていた夢があってね」――そう言いながら、幸せそうに笑っていた。
その“夢”に、カンちゃんが関係しているの?
全く読めない話の内容に、さっきから心臓がドクドクと音を立てている。
「……ジャンヌ君は、宮野君の夢の話を知っているかい?」
“私の夢”
“宮野君の夢”
それでなくても頭が混乱しているのに、高幡さんの話はそれをますます攪乱させて、ゴチャゴチャに搔き乱す。
「私がこの話を持ちかけた時、宮野君は一度断ったんだ。だけどある日、突然家にやって来てね」
「……」
「『一緒に行って、夢を叶えて……全部終わりにしようと思います』と言ってきた」
――“全部、終わりに”。
「もしかしたら、君が関わっているのかもしれないと思いながら、それには触れられなかった」
「私のエゴの為に、引き離してしまって申し訳ない」と頭を下げた高幡さんに、頭を振った。
私にあの“地球”を渡して、先に進むと言っていたカンちゃん。
私は鈍くて、バカだから。
あの夜、カンちゃんがどんな気持ちで私を抱いたのか、
「違うんです」
「……」
「私が……っ」
榊原さんが私の体に刻んだしるしを、どんな想いで消してくれたのか。
今更、彼をこんなに追い詰めていたことに気づくなんて……。
彼の無償の優しさにどこまでも甘えて、傷つけていた自分を、本当に嫌いになってしまいそうだ。