恋するキミの、愛しい秘めごと

「さむっ」

もう春のはずなのに、吹き付ける風はいつまで経っても暖かくならない。

等間隔に立つ街灯に照らされる桜の枝には、真っ赤な蕾がついていて、ぷっくりと膨らむそれは、もう春が待ち遠しくて仕方がないといった様子だ。

それを見上げながら歩いていると、新入社員として働き始めた頃の気持ちをふと思い出す。

毎年この時期はそうなんだ。

「あれから3年かぁー……」

大人になるにつれ、時間が経つのがどんどん早くなっていく気がして、最近は焦燥感に駆られることが時々ある。

25歳という年齢が、より一層その気持ちを増長させているのかもしれないけれど。


小学生や中学生の頃――もしかしたら高校生の頃だって――“25歳”といったらもうすっかり大人の自分を想像していて、きっと結婚だってしているんだろうなんて思っていた。

でも現実は、結婚どころか彼氏もいないし。それどころか、いるのは時々小姑みたいになる同居人のみ。


「はぁー……」

目的地のコンビニに到着して卵を買って、自動ドアをくぐりながら溜息をついた。

一体いつまでこの暮らしを続けるんだろう。

そんな思いが頭を過るのは、今日の篠塚さんのあの目が何故か一日中忘れられなかったからかもしれない。


カンちゃんと篠塚さんは、付き合って4年くらいだと聞いたことがある。

社会人で、付き合って4年といったらもう結婚を考えてもおかしくないはず。

もしもそうなったら、カンちゃんはどうするつもりなんだろう?

日本に帰国するまであのマンションに住んでいていいと言ってくれた伯父さんは、つい先日、今勤めている支店の店長になって永住が決まったらしいし。


――というか、それよりも……。

「カンちゃんは、いつまで私とのことを篠塚さんに隠しておくつもりなんだろう」

問題はそこ。

普通ではあり得ないことに、あのマンションのあの部屋に、篠塚さんは入ったことがないらしい。

というか、カンちゃん曰く「お互い自分のテリトリーを侵されたくないタイプ」らしい二人は、会う時はちょっとリッチなホテルで会うことにしているとか。

でも、結婚となるといつまでも隠し通せるはずがないし。

そうなる前に、私が出て行った方がいいんじゃないかーーとか、色々考えるワケだ。

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