恋するキミの、愛しい秘めごと
「ごめんな、日和」
優しい瞳に映る自分の顔は、涙でボロボロの酷い顔。
躊躇いがちに伸ばされた指が、そっと頬に触れた瞬間――これ以上出ないと思っていた涙がまた溢れ出し、彼の大きな手を濡らした。
「泣きすぎ」
「だって、カンちゃんが……っ」
さっきまでの苦しそうな表情から一変、呆れたような笑みを浮かべるカンちゃんは、なおも悪態を吐こうとする私の手を引いて、
「うん。俺が悪い」
胸に抱きとめた私の首筋に顔を埋め、震える声でそう呟いた。
「一人にしてごめん」
「……くっ」
「頼むから、そんな泣くなよ」
抱きしめる力を強めたカンちゃんの腕の中は、やっぱりお日様みたいな匂いがする。
それが嬉し過ぎて……。
「カンちゃん、私ね、」
胸の中に溜まりすぎたカンちゃんへの想いを口にしようと、目の前にある大好きな顔を見上げて口を開いた。
けれどその言葉を遮るように温かい腕の中から突然解放されてしまって、戸惑いを隠せずにいると……。
「行こう」
「え? ちょっと、どこに!?」
カンちゃんは呆気に取られる私の手を取って、自分が主役であるはずのパーティー会場とは逆の方向に向かって歩き出す。
ちょ、ちょっと待ってよ。
だって私、告白しようとしてたのに。
「カ、カンちゃん!!」
「いいから。あ、コレ頂戴ね」
慌てる私とは対照的に、ウェイティングルームにいたボーイから冷えたシャンパンを強奪して、そのまま美術館を出ると、通りに停まっていたタクシーに私を押し込んだ。
「――museum,please」
運転に告げられたのは、どこかの博物館の名前。
突然の拉致に状況が掴めない私は、見ても分かるはずのない窓の外の景色を、どこに向かっているのかと眺めてみる。
それにカンちゃんは「見てもわかんないと思うよ」とおかしそうに笑って。
すっかり日が落ちて、灯されたオレンジ色のライトに照らされるレンガの建物を幾つも通り過ぎ――
「降りよ」
辿り着いたのは、新しく建てられた様子の、白壁の大きな建物だった。