恋するキミの、愛しい秘めごと
星を見上げながらゆっくり歩いて家に帰ると、消したはずの玄関の電気がついていた。
足元には、ピカピカに磨かれた黒い革靴が乱雑に脱ぎ捨てられている。
「……まったくもー」
ホント、几帳面なのか適当なのかがわからない。
仕方がないからそれをきちんと並べ、廊下を進んでリビングのドアを開けると、そこには郵便物をチェックしている“宮野さん”の姿があった。
「おー、おかえり。つーかどこ行ってたの?」
見た目は“宮野さん”なのに、口調がカンちゃんだ。
ネクタイに手をかけて、それを緩めながら「電話したのに出ないし」とかブツクサと文句を言っている彼に、手に持っている卵が入った袋をガサガサ振ってみる。
「お疲れかと思いましたので、親子丼ぶりを調理していたのですが……。卵が切れていたので、コンビニエンスストアまで行っておりました」
ニッコリ笑ってそう言うと、カンちゃんは「“行って参りました”の方がいいと思います」と言いながら、私の手にあった袋を取り上げた。
「……いいよ、私やるから」
「んー、でもホントは俺の当番だし。今さらだけど」
着替えもせずに、笑いながらキッチンに立つカンちゃんは、私なんかよりもよっぽど疲れているはずなのに。
それを微塵も感じさせないあたりは、やっぱりすごいと思う。
「じゃー、お言葉に甘えて」
意外と律義なカンちゃんは、きっと何を言ってももう交代はしないだろうからと、正面の椅子に腰をおろしてその様子を眺める。
スーツのまま、シャツの袖をまくって料理をするこの様子を、会社の女の子達が見たらどうなるんだろう。
「なんか、“Nomo's キッチン”みたいだね」
野茂なんとかという俳優が、最近お料理コーナーを担当しているテレビ番組があって、主婦に大人気らしいそれをふと思い出す。
「いや、野茂より俺のがいい男だろ」
そう言いながら、カンちゃんが野茂の真似をしてムダに高いところから卵を鍋に投入しているから、思わず笑ってしまった。
それからもカンちゃんは、入れてもいないないのに「ここで、オリーブオイルを入れましょう」だの「これで決まり!」だの、野茂のモノマネをし続けるもんだから……。
ゴハンが出来上がった頃には、笑い過ぎてグッタリしていた。