恋するキミの、愛しい秘めごと
食事を終えてテレビを観ていると、頭からタオルをかぶってカンちゃんが戻ってきた。
冷蔵庫から取り出したビールを飲む彼の髪は、まだ濡れたままで、それを乾かす様子もなく隣にドカッと座り込む。
――あ。
「カンちゃん、私のシャンプー使ったでしょ」
フワッと香ったジャスミンの香りは、私のシャンプーのもの。
社会人になってから、癒しを求めて買ったそのシャンプーはフランスからインターネットで取り寄せをしている物で、日本では取り扱いがないからすぐにわかる。
「何か俺、すごいいい匂いになっちゃったかも」
カンちゃんは何故か楽しそうに笑っているけれど、これはどうなの?
自分の香りってよく分からないから何とも言えないけれど、“シャンプーの香りで浮気がバレた”なんて話があるくらいだから、私とカンちゃんから同じ香りがするのってどうなんだろう。
心配をする私をよそに、カンちゃんは勝手にテレビのチャンネルを変えながら、
「いつもヒヨからしてた匂いって、これだったんだな」
そんな呑気すぎる一言を口にした。
「……」
これだから男は……。
こういうところは、本当に気が回らない。
溜息を零しながらチラッと隣を見ると、視線に気付いて何故か飲んでいる途中のビールの缶を差し出してくる。
「……何?」
「あれ? 飲みたいんじゃないの?」
「……」
もういいや。別にバレても、私は困らないし。
いや、本当はちょっと困るけど。
無言でその缶を受け取り、グビグビと中身を飲み干して缶を返すと「飲み過ぎだろ!!」と笑って、またキッチンにビールを取りに行く。
その隙にチャンネルを戻すと、案の定文句を言われたけれど、元は私が見ていたんだから怒られる筋合いはないでしょう。
「つーかこれ何?」
「映画。向井君出てるやつ」
膝を抱えながら観るテレビには、去年の夏くらいに公開になったものの、仕事が忙しすぎて観られなかった映画が映っている。
切ない系の恋愛物で、ずっと観たいと思っていたんだ。
「でもさ、向井君がカッコよすぎて反則だよね。こんな人が側にいたら、誰でも好きになっちゃうに決まってるもん」
テレビの画面を眺めながら独り言のようにそう呟くと、チャンネル争いを諦めたらしいカンちゃんは、今朝読み損ねた経済新聞を開いてクスっと笑う。
「何?」
「今日会社で半沢のこと“タイプじゃない”って言ってたから。ヒヨはこういのがお好み?」
「んー、そうだねー。戦士系よりは王子系が好き」
それにカンちゃんは、新聞から目を離すことなく「確かに半沢は戦士系だな」と言ってまた笑った。