恋するキミの、愛しい秘めごと
映画を観終えると、時間はもう夜中の1時を回っていた。
隣を見ると、いつの間にか眠っていたカンちゃんが、規則正しい寝息を立てている。
珍しく、仕事以外で遅い時間まで起きていたと思ったら……。
「カンちゃん」
「……」
「カンちゃんってば」
ゆさゆさと体を揺すると、「んー……」と小さな唸り声を上げながら眉間にしわを寄せたけれど、起きる気配は全くない。
仕方がないから、布団を持ってこようと立ち上がり、カンちゃんの部屋に向かった。
「だから、部屋が汚いって」
呆れる私の目の前には、書類が散乱したテーブルと、ゴチャゴチャに丸めてその辺に放り投げられたままの紙の山。
それを徐に拾い上げ、何の気なしにガサガサ開く。
「……」
――これは。
「コラ」
「……っ」
後ろから突然聞こえた声に、心臓が跳ね上がる。
ゆっくり振り返ると、そこにはいつの間にか目を覚ましていたカンちゃんが立っていた。
「あの……ごめんなさい」
私の手の中に握られているのは、文字がびっしり書き込まれている紙。
所々に赤ペンで線が引かれ、修正文が書き足されているそれは、カンちゃんの社内コンペの企画書だった。
秋にある、大手レコード会社が主催する野外フェスの企画プレゼンが来週あって、カンちゃんがそれに応募していることは知っていた。
企画が通れば、当然ながらフェスを取り仕切るチーフに選ばれる。
それに向けて、カンちゃんが毎日遅くまで会社に残っている事は知っていたのに……。
脳裏に過るのは、最初のミーティングでのカンちゃんのあの言葉。
偶然とはいえ、勝手にカンちゃんの企画書を見た事に変わりはない。
いくら私が“誰にも内容は話さない”と言ったところで、それを信用するかしないかは、カンちゃんが決めること。
もしも信用して貰えなかったら、カンちゃんはここまで詰めた企画案を一から考え直さないといけなくなるかもしれない。
カンちゃんの真っ直ぐな視線を受けながら、背中を嫌な汗がスーッと流れ落ちていくのが分かった。
「ごめんなさい、私」
手に持ったままの、きっとボツになったのであろう案がたくさん書かれたその企画書をどうすればいいのか分からず立ち尽くす。
そんな私の手から、それがスッと抜き取られた。
「カンちゃん、本当に――」
「日和」
「え?」
“ごめんなさい”と続けたかった私の言葉は、カンちゃんの口から久々に聞く自分の名前に遮られ……。
「入って」
変わりに、デスクの上の書類を漁るカンちゃんに部屋に入るように促された。