恋するキミの、愛しい秘めごと
“入って”って……。
ドアの前で固まっていると、カンちゃんが歩み寄り、戸惑う私の手を掴んで自分のベッドに座らせた。
小さい頃はカンちゃんのベッドで遊んだり、一緒に眠ったりした事もあったけれど……。
当然、大人になってからはそんな事あるはずがない。
グレーのカバーが掛けられたフワフワの布団の上に座ると、当たり前だけどカンちゃんの香りがして、鼓動が少しだけ速くなった気がした。
それを誤魔化すように俯いた私の前に、スッと差し出された二枚の用紙。
「どっちがいい?」
「え?」
驚いて顔を上げると、そこにはいつも通りのカンちゃんがいて、私に用紙を渡すと自分もベッドに上がりゴロンと寝転ぶ。
ちょっと……。
何だか事態が掴めずにドキドキする私とは対照的に、カンちゃんはいつもと変わらない様子で私を見上げ、伸ばした手で私の頭を撫でながら言ったんだ。
「最初からヒヨに見てもらおうと思ってたから、大丈夫だよ」
それはこの企画書のこと?
「どうして……?」
だってカンちゃんは驚くくらい仕事が出来て、私みたいなペーペーが出る幕なんてあるはずがないのに。
それなのに。
「それを見て、ヒヨがどう思うのか聞きたかったんだ」
意図がつかめずにオロオロする私に、カンちゃんは笑いながらそう言った。
「このフェスの話が持ち上がった時、一昨年だかの夏の野外フェスから帰って来たヒヨの楽しそうな顔思い出してさ」
「……私?」
「俺そういうの行ったことなくて良くわかんねーから、これ見てもらって色々意見聞かせて貰おうと思ってたんだ」
「……」
「取りあえず2パターン考えてみたんだけど、読んでみて率直な感想を聞かせて」
「私なんかの感想でいいの?」
「もちろん。ついでにヒヨが行った時に気づいた事とかあったら教えて」
「……わかった」
カンちゃんは、やっぱりすごい。こういうところに、社会人としてすごく憧れる。
私はイトコであるのと同時に、会社の後輩で……。
少なくともあの部署には、こうして自分の企画に対する後輩の意見なんてものを聞こうとする人は他にいないと思った。