恋するキミの、愛しい秘めごと
「う……ん?」
寝不足特有の頭痛で目を覚ました私の霞む視界には、見慣れない景色が広がっていた。
ここは……どこだろう。
明色系の家具で統一されている私の部屋とは対照的に、暗色系の家具が並ぶこの部屋。
それに、何だか息苦しい。
「なにー……?」
もとから朝が得意ではない私は、少し苛つきながらお腹の辺りにのしかかる重みの原因に手をかけ、ハタとする。
「……」
あれ?
働き始めた頭に、少しずつ蘇る昨夜の記憶。
向井君の映画を堪能して、寝てしまったカンちゃんの為に布団を取りに部屋に行って、企画書を見てしまって……。
――企画書?
「……っ」
その言葉と、触れた“何か”の温もりに息を呑んだ。
ここは、カンちゃんの部屋だ。
触れた物は、誰かの腕。
「ん……」
少しの衣擦れの音と共に、耳にかかった温かい寝息は、紛れもなく、私を抱きしめるようにして眠るカンちゃんの物だった。
どどどどうしよう。
今にも叫び出してしまいそうな自分の口を手で押さえると、手にじっとりと汗をかいている事に気がついた。
口から飛び出てしまいそうなほどドキドキしている心臓は大きな音を立てていて、何なら吐き気がするくらい。
ど、どうする?
どうすればいい!?
頭の中はパニックで、このあと自分が取るべき正しい行動がわからない。
取りあえず布団から出るべき?
だけど、私を後ろからしっかり抱きしめているカンちゃんのこの腕はどうしたら?
そもそもいつ寝ちゃったの!?
どっちが先に寝ちゃったの!?
身動きも取れず、体をカチコチに固める私のお腹には相変わらずしっかりと巻きついたままのカンちゃんの腕。
とにかくそれを引き剥がさないと動けないし、何より、こままでは心臓がいつまで経っても落ち着かない。
だから、そっと。本当にそーっとそれを動かそうとして、
「……ひっ」
だけど次の瞬間、カンちゃんが無意識に取った行動のせいで、私の口から悲鳴にも似た小さな声が漏れ出てしまった。
ゴクリと息を呑む私の首元に埋められた、カンちゃんの顔。
頬にかかった少しだけクセのある黒髪からは、私と同じジャスミンの香りがする。
“これはカンちゃんなんだ”
“昔から知っているカンちゃんで――”
バカみたいに鼓動を速めている自分に、そう言い聞かせようとしたのに……。
そんなの、ムリに決まってる。
だって、全然違う。
いつの間にか私が“女”になって、カンちゃんが“男”になっていたという事実に、今更気づいてしまった。
私を抱きしめる、細いのに筋肉質な腕も、首筋に触れる熱い唇も。
カンちゃんが“男”だということを、嫌というほど意識させる。