恋するキミの、愛しい秘めごと
「ちょっと日和、どういうこと!?」
あの“同じベッドで過ごした一夜”から、一週間と二日が過ぎたある日。
オフィスに駆け込んできた小夜の声に、何事かと振り返った。
声を押し殺してはいるものの、明らかに興奮した様子で、キーボードを打つ手を止めた私の隣のデスクに座り込む。
「どうしたの? もし楽しいゴシップネタなら休憩の時に――」
「日和、あんたいつの間に宮様とお近づきになったの!?」
「……え?」
反応がワンテンポ遅れてしまったのは、演技ではなく本当に言っている意味が解らなかったからで……。
「だから、どうして宮様の企画書にあんたの名前が入ってんのよ!!」
そう言われても、有能らしいカンちゃんはこれまでたくさんの企画を立ち上げてきたから、言っているのがどの企画の事だかわからない。
「あぁ、もーっ!!」
キョトンとする私に痺れを切らした小夜が、待ちきれないと言わんばかりに人のパソコンを勝手にいじり出し、開いたのは社内メールの画面だった。
この会社は面白い会社で、社内コンペの結果は、その企画に関係する部署の社員全員にメールで一斉送信する事になっている。
だから、企画を出す人間も強い覚悟を持って出さなければいけないし、結果が発表される日にはソワソワしながら一日を過ごさないといけない。
「あ、これ今日発表だったんだ」
メールの件名を確認したところで、それがこの前の夜に、カンちゃんと話していた野外フェスティバルのコンペ結果を知らせるものだとわかった。
「“今日だったんだー”じゃないよ!!」
相変わらずガチャガチャと五月蝿い小夜を尻目に、メールをクリックして内容を確認する。
「……あ」
思わず声を上げた私の目に映り込んだのは『企画責任者:宮野 完治』の文字で、少しだけ自分の頬が緩んだのがわかった。
良かったじゃん、カンちゃん。
今週もカンちゃんが食事当番なんだけど、今日は特別に、カンちゃんが好きなコロッケでも作ってあげようかな。
「宮野さんに決まったんだ」
ワザとらしくならないように、さり気なく。
あたかも“上司のコンペの成功を祝う部下”を演じて、仕事に戻ろうとマウスに手をかけた。
「だから、“決まったんだ”じゃなくて添付されてる企画書の一番下見てみなさいって!!」
「もー、何なのよー……」
それなのに、小夜がしつこく食い下がるから、溜息を吐きながらマウスを操作して画面をスクロールしていく。
「だから、この企画書が――」
“何なの”と言いかけて、目を見開いた。
だって、そこには……。
「どうして共同立案者の欄に、日和の名前があるのよー!!」
『共同立案者:南場 日和』の文字が。
社内コンペの結果の知らせ方もそうだけど、新しいアイディアを捻り出すためなら手段を選ばないこの会社では、複数人数での企画の立案が認められている。
その場合、表に立ってプレゼンなどをする代表者をひとり選出し、残ったメンバーは裏方に回って代表者のバックアップをするのだ。