恋するキミの、愛しい秘めごと
野外フェスのサブチーフに任命されてからは、本当に忙しかった。
“目が回る忙しさ”なんて言うけれど、やることが沢山ありすぎて目を回している暇なんてない。
けれど、毎日が本当に充実していて楽しかった。
「南場さん、スポンサーがもう一社増えるから、明日の午後の予定空けておいて」
「わかりました。ちなみに、どちらの会社ですか?」
「ヤマノ」
「“ヤマノ”って、化粧品のヤマノコスメティクスですか?」
「そうそう」
「大手じゃないですか!」
私の話しから閃いたというカンちゃんのアイディアはすごく評判がよくて、こちらからお願いしなくても、色んな会社が「ぜひスポンサーに」と名乗りを上げるほど。
内容としては、着替えが出来る大きなイベントテントを建てるというものなんだけど……。
会場で何らかの買い物をした人は、このテントに入るための入場券を手に入れられて、中では着替えなりお昼寝なり好きなことをしていていいのだ。
テント内に大きなスクリーンを設置して、常にスポンサー企業の商品のプロモーションビデオを流し、テントの周りに作ったブースでそれをすぐに購入することが出来るようにする。
更に、そこで購入したグッズの金額によって、テント内で様々なサービス――ドリンクが無料になったり、ヘアメイクやフェイスペイントをしてもらえたり――が受けられるようになる。
大雑把に説明するとこんな感じなんだけど……。
「本当は無料にしたかったんだけど、テントに入れる人数も限界があるからなー」
お客様第一主義のカンちゃんはそう言って、グッズの値段を下げたり、企業側にもっと特典を付けるように交渉したりしている。
ああいう場になると、人間浮かれてしまってお財布のひもが緩くなる事を企業側だって知っているから、企業側もそれを受け入れ、いい場所に自分の会社のブースを出すために色々な企画を上げてくる。
スポンサーとの交渉の場でもカンちゃんはやっぱりすごくて、その仕事っぷりに驚かされた。
譲るところは譲るけれど、こちらが不利になるような条件を提示された時にはそれを上手くかわし、気づくといつも自分たちが優位に立てるよう話しの流れを持っていくのだ。
だから交渉術に長けていない私は、時間が空けばカンちゃんにくっついてスポンサー企業に行き、勉強をするようにしていた。
「まだ三年だろ? ゆっくり覚えていけばいいんだよ」
前よりも少しだけ仕事の会話が増えた食卓で、カンちゃんはそう言って笑ていた。
だけど、出来ることが増えると仕事が楽しくなるのは事実だし、いつの間にかカンちゃんみたいに仕事が出来るようになりたいって、そう思うようになっていて……。
必死になるあまり、少しだけ空回りをしていたのかもしれない。