恋するキミの、愛しい秘めごと
高級感漂う料亭に到着して、着物姿の中居さんに名前を告げると、通されたのは風情ある坪庭に面した離れの個室だった。
部屋には床の間があり、これまた高級感溢れる掛軸が掛けられ、翡翠色の壺が飾られている。
「……」
何だか私、果てしなく浮いている気がするんですが。
それにしても、大企業のお偉いさんともなると、こんな所で商談が出来るのか。
一体いくらまで経費で落とせるの?
……あれ?
思いっきり向こうにご馳走してもらうつもりで来ちゃったけど、こっちが支払いをするべき!?
だとしたら、かなりの額を自腹で払わないといけないのですが……。
一応向こうが持ち掛けてきた話だから、多分支払いは向こう持ちかワリカンでいけると思んだけど。
こういう所って、普通はカード使えるよね?
手持ちがあまりない事を思い出し、変な汗をかき始めた頃、襖が開き、中居さんと共に与野さんがやって来た。
「お待たせして申し訳ない! 出掛けに少しトラブルがあってねー」
汗を拭いながら、立ち上がってビシッと姿勢を正した私の向かいに座り、与野さんは中居さんに「いつもの懐石を」と告げる。
――“いつもの”って。
本当にこんな所を頻繁に使っているんだ。
美しい所作で頭を下げ、去って行く中居さんを眺めながらそんな事を思った。
それから「まぁ、座って」と促され、内心ソワソワしながらも笑顔を浮かべて腰を下ろし、他愛もない会話を交わす。
本当ならさっさと仕事の話をして、美味しいゴハンを食べて家に帰り、向井君のドラマを見たいところだけれど。
当然、そういうわけにもいかないから、中居さんによって折敷膳が運ばれてくるまで、与野さんの絶え間ない弾丸トークとくだらないオヤジギャグに付き合う羽目になった。