恋するキミの、愛しい秘めごと
朱色に色付いた葉もすっかり枯れ落ち、木枯らしが吹き始めた初冬のある日の事。
会社近くのカフェの、吹きっ晒しのオープンテラスでランチを取っていた。
「ねぇ、何で中じゃダメなの?」
出されたカプチーノを啜る私の前の席には、同じように寒そうにホットココアを啜る小夜が座っている。
「だってね、そろそろ来るの!」
そう言って、カフェに面した通りに視線を向ける小夜は、すっかり乙女の顔。
「あ、ほら! あそこ!」
嬉しそうな声に視線を辿ると、そこにはスーツの上にダークベージュのコートを羽織った男の子が、数人の同僚であろう人達と一緒に歩いていた。
楽しそうに笑う顔は、確かに可愛らしいけれど。
「やっぱり年下っぽくない?」
その無邪気な笑顔もそうなんだけど、やっと着慣れてきた感があるスーツ姿は、社会人一年目を思わせる。
「やっぱそうかなぁー。でも可愛いよね?」
「まぁ……どうだろう」
「可愛いの! あー、ホントどうしようかなぁ……」
曖昧に返事を濁す私の真向かいに座る小夜は、ここ二週間こうして一人溜息をつき続けていた。
「まだ時間もあるし、もう少し悩んでみたら?」
「……」
「何?」
あまりの寒さに耐えきれず、話を打ち切ろうとした私の作戦は、睨むような小夜の顔を見た感じ、どうやら失敗に終わったらしい。
「だってさ、バレンタインはまだ二ヶ月も先だよ!? 今、しかもこんな寒空の下で悩む事じゃないでしょ!?」
「そうだけどー」
遡ること三週間前。
「私、ヤバイかも」
ランチを終えて帰って来た小夜は、隣のデスクに座るなりそんな意味のわからない一言を、独り言のように呟いた。
チラリと横を見ると、小夜は何故か目をキラキラさせていて。
「私、恋しちゃったかも」
そんな、二十代半ばを過ぎた女が口にするにはどうかと思える“恋しちゃった”宣言をした。
それからというもの、小夜は彼の姿をチラッと眺める為だけにこのカフェに通い詰め、「いつも一人で、寂しい女だと思われたらヤダ!! 日和も付き合って!!」と、時々こうして人を巻き込む。
ランチをおごるというオイシイ条件を小夜が出してきたから、まぁいいんだけど。
そして、バレンタインが再来月に迫った最近では、彼にチョコを渡して告白するかしないかで、こんな風に一人頭を抱えているワケだ。
恋に夢中になれるのは、羨ましい気はするけど……。
カップに残っていたカプチーノを飲み干していると、ジッと私を見上げる小夜の視線に気がついて手を止める。