恋するキミの、愛しい秘めごと
「どうしたの?」
「日和って、好きな人いないのかなーって思って」
「……」
興味津々な様子の小夜の瞳に、一瞬頭に浮かんだカンちゃんの顔。
いや、だから違うから。
カンちゃんは、そういうのじゃなくて……。
誰に対してかわからない言い訳を心の中でして、小さく頭を振る。
そんな私の様子に、小夜は「つまんなーい」と口を尖らせて言ったんだ。
「じゃーさ、宮野さんとかは?」
「……それはないかな」
――色んな意味で。
「えぇー。だって、最近いつも一緒に仕事してるじゃん!」
「まぁ、そうだけど」
「今だって、バレンタインフェアの企画一緒にやってるでしょー?」
「一緒にやってるって言っても、仕事だし」
眈々と答える私の様子に、小夜はやっぱり「つまんない」と唇を尖らせて、もう冷えてしまっているであろうカップの中身を飲み干した。
「そもそも“宮様”とか言って騒いでたのは小夜でしょ?」
「そうなんだけど、宮野さんってなんか完璧すぎてさー。取っ掛かりがないっていうの?」
「完璧……ね」
その一言に、家でのカンちゃんの“完璧”とは程遠い適当っぷりを思い出して吹き出しそうになる。
昨日も人の「沸かし直した方がいいよ」という忠告を無視して、ポットに残っているお湯を夜食のカップラーメンに注いで……。
案の定、お湯はぬるいし、しかも足りないし。
「もーいいや」と、うな垂れながら啜ることも出来ないパリパリの麺を食べていた。
あれが会社に来ると“完璧な宮様”になるんだから信じられない。
「日和ってしばらく彼氏いないでしょ? 恋したいなーとか思わないの?」
「恋ねー……」
小夜の言葉を聞いて、少し考える。
確かにここ三年くらい彼氏はいないんだけど、ただ出逢いがないだけで別に恋がしたくないワケじゃない。
毎日オシャレを頑張ったり、ちょっと姿を見られただけでも嬉しかったり――確かに、恋をしていた方が楽しいとは思う。
「でも、今は仕事も楽しくなってきたところだから、しばらくはこのままでもいいかな」
そう告げて仕事に戻ろうと立ち上がると、彼が通り過ぎたこのカフェにいる必要がなくなった小夜も立ち上がる。
「そんな事言ってると、あっという間に婚期逃すんだから。……篠塚さんみたいに」
いや、その篠塚さんと“完璧な宮様”はお付き合いされてるんですけどね――なんて言えない私は、それにハイハイと頷いて歩き出す。
でも、結婚出来る相手がいての“婚期を逃している”と、結婚を考える相手もいない“婚期を逃す”では確かに少し違うか。
……うーん、恋ねぇ。
「そう言えば日和、今日も午後から宮野さんと競合プレゼンだったよね」
「しかもかなり大掛かりなやつね。なのに、あんな寒空の下で一緒にランチを食べてくれた私を大事にすべきだと思うよ」
この時は、思ってもいなかった。
まさかこの数時間後の出逢いが、私に小夜と同じ悩みを抱えさせる事になり、それがカンちゃんとの関係まで変える事になるなんて……。
そんな事、知る由もなかった。