恋するキミの、愛しい秘めごと
会社に戻ると、カンちゃんは「報告してくる」と言ってすぐに部長とミーティングルームに篭ってしまった。
私も一応サポートをしていたわけだし、立ち合った方がいい気はしたけれど……。
脳裏を過る、カンちゃんの悔しそうな表情。
当然部長にも今回のプレゼンの話をしているのだろうから、私は一緒にいない方がいい気がした。
もし呼ばれたら行こう。
小さく溜息を零し、自分のデスクに腰を下ろすと他の仕事に取りかかった。
だけどやっぱりカンちゃんの様子が気になって、パソコンを打つ手が止まってしまう。
手を止めては時計を見て、またパソコンに視線を戻して――それをしばらく繰り返していた。
「ねー、何かあったの?」
「え?」
顔を上げると、ミーティングルームに視線を送る小夜がいて、
「部長と宮野さん、まだ戻ってないの? 部長にハンコ貰わないといけないんだけどなー」
頭を掻きながら、困ったようにそう呟く。
「……」
確かに、二人で部屋に篭ってから、かれこれ一時間近くが経っていて、オフィス内の同僚達もそれが気になり始めている様子だった。
「プレゼン、上手くいかなかったの?」
小夜の問いかけに、何と返事をしたらいいのかと言葉に詰まったその時。
「あ、出て来た。ちょっと部長のとこ行ってくるね!」
ミーティングルームの扉が開き、中から部長と、それに続いてカンちゃんが出てきた。
――あれ?
部長に肩を叩かれたカンちゃんが小さく頭を下げ、自分のデスクに戻って帰り支度を始めたその姿に、つい首を傾げてしまった。
やっぱり体調が悪いの?
ジッと様子を窺ってみるも、パッと見たかぎりそんなに大きな変化はなさそう。
でも……表情がいつもと違う。
何か思い詰めているような、そんな表情。
それからカンちゃんは、何人かの同僚に仕事の話をすると「すみません、お先します」と軽く頭を下げてオフィスを後にした。
その直後。
私用携帯から、メールの受信を知らせる音が小さく響いて、慌ててそれを開く。
『風邪っぽいから先帰るわー。お仕事ガンバッテね』
「……」
差出人欄に“カンちゃん”と表示されたメールには、そんなメッセージが残されていた。
風邪。
風邪?
うーん。
でも、本人がそう言っているんだし、何より――嘘だったとしても、仕事大好きカンちゃんが、それを切り上げて帰るくらいだもん。
きっと、理由があるんだろう。
「ふー……」
よくわからないモヤモヤした気持ちを振り払うように、深呼吸をひとつして。
「よし! やる事いっぱいなんだから、頑張らなきゃ」
腕まくりをして一人気合いを入れ直すと、パソコンに向かって再び仕事に取りかかった。