恋するキミの、愛しい秘めごと
「……遅くなっちゃった」
残務処理をしていたら意外に時間がかかってしまい、会社を出た時には9時を過ぎていた。
パタパタと足早に駆け抜けるマンションのエントランスには、知らぬ間にクリスマスの飾り付けがされていて、センスのいいシックなクリスマスツリーは青いライトで彩られている。
そのキラキラとした光に一瞬瞳を奪われ、ハッとした。
「こんな事してる場合じゃないし!」
夕方、カンちゃんに『遅くなりそう』とメールをしたら、『メシも適当に食うし、気にしなくていいよ』という返事が届いた。
カンちゃんの事だから、またカップラーメンで済ませているかもしれない。
しかも、お湯を沸かすのをサボって、またパリパリ麺になってゲンナリしているかもしれない。
そんな思いから、エレベーターを降りた私はバタバタと足音が立つのも気にせず、部屋に急いだ。
ガチャガチャと鍵を開け、電気の点いたリビングに駆け込む。
――が。
「……カンちゃん?」
そこにいると思っていた人物の姿がない。
「カンちゃん? いないの?」
声をかけながらキッチンに回ると、コンロにはカンちゃんが作ったと思われるキムチ鍋が置かれていた。
……やっぱりお鍋だよね。
お昼の私と同じことを考えていたカンちゃんに、思わず笑みが零れる。
「って、カンちゃん捜さなきゃ」
もしかしたら、無理をしてキムチ鍋を作って、どこかで生き倒れているかもしれないし。
取りあえずリビングを出て、さっき通り抜けた廊下に戻る。
「……」
ここでもなさそう。
右手にあるお風呂場のドアの前で耳を澄ましたが、中からは何も音がしない。
一応ドアを開け、中をそっと覗いたけれど、やっぱりそこにカンちゃんの姿はなかった。
「あとは、部屋か」
お風呂場の斜め向かいにあるドアの前で立ち止まり、少し悩む。
カンちゃんの部屋。
実はあの“一緒に朝を迎えた日”以来入っていないその部屋は、何となく足を踏み入れにくい。
「……あれ?」
だけど、足元から吹き出して来る冷風に気が付いて、ゆっくりとドアノブに手をかけた。
「カンちゃん?」
ソローっと中を覗き込むと、部屋の電気は消えている。
ここでもない?
首を傾げて、本気でその身を案じ始めたその時、視界の片隅に揺れて翻るカーテンが映り込んだ。