恋するキミの、愛しい秘めごと
ゆっくりと足を踏み入れた部屋のエアコンは消されたままで、身震いしながら窓辺に近づく。
「カンちゃん?」
部屋に漂うタバコの香り。
嗅ぎなれない香りにドキドキしながら、小さくその名前を呼んで、そっとカーテンを開いた。
「……」
その先にあるベランダに、カンちゃんはいた。
手すりに寄りかかりながらボンヤリと空を見上げて、吸い込んだタバコの煙をゆっくり吐き出していく。
ユラユラ揺れる紫煙は、静かにその形を変えながら、吸い込まれるように空に消えていった。
聞かなくてもわかる。
今日のカンちゃんは、やっぱりどこかおかしい。
――だけど、いつから?
昨日はいつもと変わらなかった。
今日の午前中の打ち合わせの時だって、誰もいないのをいい事に、人のスマホの常識クイズアプリで遊んだりしていたし。
プレゼン会場のカフェで、ケーキを食べた時だって普通だったはず。
その後にあった事といえば、榊原さんに会った事くらいで……。
でも、私が見る限りでは二人とも楽しそうに話をしていたはず。
「……」
それ以外の事なんて、思い浮かばない。
こういう時、ふと思うんだ。
“私とカンちゃんは、やっぱりただのイトコなんだ”って、そう思う。
それは事実で、その関係が変わることもないし、変える必要もない。
だから、全てを知らないなんて当たり前だって事は解っているんだけど……。
時々感じる壁に、淋しさを覚えてしまうことがある。
ここまでくると、本気で自分のブラコン――いや、イトコだからカズコン? イトコン?――っぷりが心配になってくる。
くだらない考えに頭を振り、溜息を吐いた時、ベランダのカンちゃんがゆっくり振り返った。
「……ヒヨ?」
「うん」
「お帰り」
「ただいま」
口元にわずかな笑みを浮かべるカンちゃんは、私の視線が自分の手元に向けられている事に気が付いて、苦笑いを浮かべる。
「ごめん。臭かったよな」
「ううん、別にいいんだけど……珍しいなぁと思って」
「うん。今ちょっと反抗期なの」
またタバコを口に咥え直し、煙を燻らせながらクスッと笑ったカンちゃん。
「風邪だって聞いたけど」
「あー……」
「仮病で会社サボって、タバコ吸って。三十路で反抗期ってどうなの」
笑いながら、からかうようにそう言って、隣に並んで空を見上げる。
「……」
平気な顔をしながらも、私の頭の中はグルグルしているし、すぐ横からはカンちゃんの視線を感じるし。
どうしよう。
何か……何を話そう。