恋するキミの、愛しい秘めごと
「……」
さっきから、胸の鼓動が少し速い。
二人で包まる毛布の中は、すごく温かくて心地よくて。
何だか勘違いしてしまいそうになる。
「カンちゃん、また私のシャンプー使ったでしょ?」
「おー、間違えた。さっきからヒヨの匂いがするなーと思ってたんだけど、俺の匂いか」
無邪気に笑う彼の髪から香った、自分と同じ花の匂いのせいなのかもしれない。
「さて、そろそろ中に入ってキムチ鍋食いますか」
「うん。そうだね」
あまりに居心地のいい、カンちゃんの隣のこの場所が、自分が探している場所なんじゃないかなんて――そんなバカみたいな錯覚さえ覚えしまう。
「カンちゃん、携帯光ってるよ」
「あー、多分冴子だ」
「……」
「電話もメールもシカトしちゃってたからね」
結局、言ってしまえば“カンちゃんの事が好きかもしれない”という事なんだけど、それはこんな風にいとも簡単に打ち消されてしまう想い。
「電話してから行くから、先に食ってて」
「わかったー」
それなら、最初からそんな想いは抱かない方がいいに決まっている。
ベッドの上に放り投げてある携帯を手に取り、耳にあてるカンちゃんを部屋に残し、ドアを閉めた。
外よりも温かいはずの廊下が妙に寒く感じて、身震いをした私は、そのままドアに寄りかかり小さな声で呟いた。
「私も好きな人作らなきゃ」
不毛な恋に走りそうになる自分にブレーキをかける為にも、きっとそれが一番いいんだろう。
ドアの向こうからは、自分には向けられた事のない、カンちゃんの柔らかい声が漏れ聞こえていて。
ほんの少し痛んだ胸に手を当て、息を吐き出した。
大丈夫。
まだまだ引き返せるでしょ。
「……よしっ! ゴハン食べよっと!」
カンちゃんはイトコで同僚で、いつかは解消されるルームメイト。
ただ、それだけの関係。
それがちゃんと解っているなら大丈夫。
恋人としてではなく家族として、いられる間はカンちゃんの傍にいよう。
それが、最良の選択に決まっている。