恋するキミの、愛しい秘めごと
「えっと……」
それから数分後、挙動不審気味な私は 、可愛らしいカフェの前に立っていた。
白壁にオレンジのトンガリ屋根。
綺麗に寄せ植えされたプランターには、可愛らしい黄色い花が咲いていて、それがセンスよくウッドデッキに並べられている。
「こ、ここは……?」
戸惑う私の隣には、榊原さんが立っていて、私の背中をポンと押してお店に入るよう促した。
わけもわからぬまま席に通され、メニューを渡され……。
「よし、じゃーいただきます!」
「……いただきます」
10分後には、美味しそうに湯気を立てるランチプレートが目の前に置かれていた。
混乱する私を尻目に、榊原さんはオムライスを頬張りながら「美味い!」なんて呑気に感想を述べていて。
「あ、あの榊原さん?」
「ん?」
「ここは……何ですか?」
やっと核心に迫る質問が出来た私に、一瞬キョトンとした表情を見せ、「あぁ!」と思い出したようにスプーンを置いた。
さっき、会社に戻る道で彼に会い、少し立ち話をして……。
「ちょっと付き合って貰えないかな?」という言葉に、意味がわからないまま「はぁ」と曖昧な返事をしたのだ。
そしたら、今のこの状態ですよ。
説明を求めようとジッと顔を覗き込むと、「まぁ、食べようよ」と笑顔を浮かべてこんな事になった理由を話してくれた。
「実は、今度このカフェのリニューアルイベントを任される事になったんだよ」
「はぁ」
「だから一回このカフェの雰囲気を知っておきたいなぁと思っていたんだけど……」
そこで言葉を一旦止めた榊原さんは、
「でも、女の子に人気のお店だけあってお客さん女の子ばっかりで。男ひとりで入るには、周りの視線が痛すぎたんだ」
周りをぐるっと見回しながら、フッと困ったように笑った。
言われてみれば。
そんなに広いとはいえない店内には、お昼休みのOLや、大学生くらいの女の子がひしめき合うように座っていて、話に花を咲かせている。
「こんな所に、スーツを着た男がひとりとか……。拷問だと思わない?」
なるほど。
そこに丁度よく私が現れたというわけか。
でも、榊原さんみたいな人なら、一緒に来てくれる女の人なんて腐る程いそうなのに。
そんな私の思考を読んだのか、榊原さんは再びオムライスにスプーンを伸ばし「彼女がいないから南場さんに頼んだんだからね」と笑う。
「……すみません」
「いえいえ。おかげで可愛い子と食事も出来たし、ラッキーかも」
そんなくだらない事を言いながらも、お店の様子を観察する目は真剣で、真面目なのかユルユルした人なのか……。
カフェに滞在していた40分間で持った榊原さんの印象は――イマイチ掴み所がない、不思議な人。
そんな感じだった。