恋するキミの、愛しい秘めごと
結局「返事をしてこい」というカンちゃんの言葉を無視してゴハンを食べ続け、リビングのソファーに置きっぱなしにしていた携帯に手を伸ばしたのは食器の片付けを終えてからだった。
『昼間はありがとう』
その一言で始まったメールはやっぱり榊原さんからのものだった。
長くもなく短くもない、絵文字ではなく一か所にだけ顔文字が使われたメールで、何となく“榊原さんっぽい”と思える。
悪くない――なんて、上から品定め出来る立場では全くもってないのですがね。
程よい距離の男の人としては、無難というか好印象を受けるメールだと思う。
でも内容が……。
『珍しいお酒をたくさん置いてる店があるんだけど、今度行かない? よかったら、宮野も一緒に』
飲み with カンちゃん(というか、宮野さん)ってどうなの。
そもそもカンちゃんって、榊原さんの前ではどっちのキャラなんだろう?
それ以前に、過去の事は割り切ったと言っていたカンちゃんだけれど、一緒に飲みに行くとなるとどうなんだろう……。
「何だって? 王子は」
「……」
「冗談だよ」
ひとり悶々と考える私の頭上から、言ってしまえば悩みの種になっているご本人がヒョイっと顔を出し、そのお気楽な声と言葉にちょっとムカッとする。
そもそも、カンちゃんがいたから榊原さんに会って、二人の過去なんて聞いちゃったからこんなに悩んでいるのに。
「カンちゃん」
「んー?」
いつも通り、隣に座ってザッピングを始めたカンちゃんに声をかける。
「榊原さんが、一緒に飲みに行かないかって」
「……」
「私はどっちでもいいから、カンちゃんも自分で決めて」
これは私が決める事じゃないし、カンちゃんの中にまだ少しでも蟠《わだかま》りが残っているのであれば断ればいい。
そう思いながらも少しドキドキしている私の前で、カンちゃんは視線を天井に向け、少しだけ考えこむ。
「ヒヨは?」
「え?」
「行くの?」
「いや、まだ決めてないけど……」
「じゃー、ヒヨが行くなら行こうかな」
予想外な返答に隣を見ると、そこに座る男はなにやら楽しそうに笑っていて……。
「必要ならキューピーちゃんになってあげるけど」
と、心から「結構です」と言いたくなるようなセリフを口にした。
まぁ、ここで議論というか口論したところで、榊原さんは“宮野さん”と私が今一緒にいる事を知るはずがないのだから。
結局、榊原さんには『明日、宮野さんに確認をしてまたご連絡します』という内容のメールを返信した。