恋するキミの、愛しい秘めごと
さて、今日はどこに泊まろうかな。
取りあえず恵比寿方面に向かっているタクシーの中で、ホテルを探そうと携帯を取り出した。
「……」
するとそこには、一件の不在着信と一通の未読メールの表示。
誰からかは……だいたい予想はつくけれど。
開くとやっぱりカンちゃんからで、『冴子は家に送ったから』という内容のメッセージが残されていた。
それを見てもさっきほど胸が痛まなくなったのは、榊原さんと話をしたせいなのかな……。
今まではただひたすらに、自分の中だけに無理やり押し込めて、閉じ込めてきた想い。
それは一方的に膨れ上がるばかりで、いつの間にか行き場を無くしてしまっていたのかもしれない。
もうホテルにいく必要もないか……。
少し迷ったけれど、きっとカンちゃんは心配しているだろうから。
『遅くなってゴメンね。今から家に帰ります』
そう打ち込んで送信し、携帯をポケットに入れる。
しばらく降り続いていた雨は、道路に水溜りを作っていて、それが跳ねる音を聞きながらゆっくりと瞳を閉じた。
「……」
さっきから、あの綺麗な光が瞼の裏に焼き付いて離れない。
濃紺の地球に、キラキラ光るたくさんの灯り。
あの中に、一体どれだけの人が暮らしていて、どれだけの喜びや悲しみがあるのだろう。
そして、その中のどれほどの人が、今日の私みたいに誰かによって救われたのだろうか……。
「はぁー……」
それにしても、あの時の自分の行動を思い出すと恥ずかしくて仕方がない。
男の人の前でメソメソ泣くとか、今更だけと本当にあり得ない。
次に榊原さんに会うのは、仕事の時かな……?
そうなった時に、どんな顔をして合えばいいのかと思いつつも。
心のどこかで、また彼とゆっくり話をしてみたいと思っている自分に気が付いて、少しだけ笑みが漏れる。
榊原さんの事なんて、きっと殆ど知らない。
けれど、それでもあんなに素敵な物とあの空間を造り出すことが出来る彼を、もう少し知りたいと思った。
「……」
こられも兄離れの第一歩になるのかな?
ポケットで小さな音を立てた携帯を再び取り出し、届いていた二つのメールに目を落とす。
一件はカンちゃん。
『了解。帰り気を付けろよ』
そしてもう一件は……。
『今日は楽しかったです。またあれを見たくなったら、いつでも来ていいから』
「……」
『前田もまた会いたがってたし、よかったらまた飲みに行きましょう』
そんな榊原さんからのメール。
それに胸がトクンと柔らかい音を立てて……。
――時間があるなら、焦らなくてもいいんじゃない?
蘇る声に心地よさを覚えながら、再び瞳を閉じて車の揺れに身を委ねた。