恋するキミの、愛しい秘めごと
ここに来て、別に何かをするわけではない。
ただお茶やコーヒーを飲み、他愛ない話をしながら、二人並んで地球の夜をぼんやりと眺めるんだ。
「そう言えば私、今度社外コンペに参加する事になったんですよ」
「へぇ。因みに、何の?」
「品川に新しく出来る、博物館の中のカフェです」
しばらくして、何気なく始めた会話。
それに隣に座る榊原さんの茶色い瞳が見開かれ、困ったように頭をかいた。
どうしたんだろう?
可愛らしくさえ感じてしまう彼の表情を眺めながら、小首を傾げる。
「それ、俺も参加予定」
「あー……」
なるほど。そういう事か。
まぁ、同業だからこんな風に仕事がかち合う事もあるのだろうけれど。
まさかの直接対決が、こんなに早くに実現するとは。
お互い眉根を寄せながらしばらく見つめ合い、フッと笑い合った。
「榊原さんと私って、不思議な関係ですよね」
「……まぁね」
それも、何気なく口にした言葉だった。
けれどその言葉に、榊原さんは持っていたカップをテーブルに置いて……。
「あの、」
「この関係、変えるつもりはある?」
ゆっくりと伸ばされた手が私の頬にそっと触れ、言葉に詰まってしまった。
“関係を変える”――それは、つまり……。
「俺の彼女になって」
真っ直ぐ私に向けれる瞳は、いつもの冗談を口にしている時とは比べものにならないほど真剣で、胸がドクンと音を立てた。
視界の片隅に、キラキラの光る地球が見える。
あぁ、この大きな手であの綺麗な物を造ったのかと思うと胸がギュッとなった。
だけど、どうしよう。
「あの、」
「うん」
「えっと……」
榊原さんの事は嫌いじゃない。
むしろ好きな部類に入ると思うんだけど……。
「――っ」
その指が唇に触れた瞬間、痛んだ胸に息を飲み、思わず瞳を伏せてしまった。
「南場さん?」
「あの……っ」
本当に無意識のうちに取ってしまった行動。
それに「まだ早すぎたか」と小さく笑った榊原さんの手が、下を向いた私の頭をそっと撫でて離れていく。
「私――」
「焦らなくていいって言ったのは、俺なのにね」
その言葉に頭を横に振りながら、零れそうになる涙をグッと抑え込んだ。
胸がギシギシ痛んで、息苦しさを覚えた私はギュッと手を握りしめる。
榊原さんの気持ちを嬉しいと思う自分と、思い出してしまった感覚に戸惑う自分。
「だけど、一応それが俺の気持ちだから」
「……」
「俺と一緒にいて楽しいって思ってくれるなら、そういう選択肢もあるって覚えておいて」
「はい」
蘇ったのは、唇に触れたカンちゃんの手の温もりと、ジャスミンの香り。
忘れかけていたはずのそれを、一瞬で思い出してしまう私は、変な魔法にでもかけられているのかもしれない……。