恋するキミの、愛しい秘めごと
結局答えは出せないまま。
「忘れないで欲しいけど、気にはしないで」――という榊原さんの難しい言葉に曖昧に頷き、彼の家をあとにした。
週末の約束はどうしよう……。
マンションの前でタクシーを降りて、ボーっとしたままエレベーターに乗り込み、大きくなっていくオレンジ色の数字を眺める。
榊原さんか……。
今更だけど、私は彼のことをどう思っているのだろう。
友達とは少し違う。
先輩でもない。
そこまで考えて、玄関のドアに鍵をさしたところでふと手を止める。
――“いっそのこと、合鍵でも作ろうか”
楽しそうに笑う榊原さんは、あの言葉をどんな気持ちで言ってくれていたのだろう。
そう考えると、胸がトクンと小さな音を立てて、甘く痺れたようにキュンとなる。
「……どう考えても、嫌いじゃないよね」
これは、恋なのか。
それとも無意識のうちに、想いの届かないカンちゃんの代わりになる誰かを探してしまっているだけなのか。
もしも後者だったら、本当に最悪だ。
それを見極められずに榊原さんと付き合って、後からその感情に気が付いてしまったら……。
それだけは絶対にダメだ。
私に好きな人がいると知った上で、それでも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた榊原さんを傷付けるようなことだけは絶対にしたくない。
勝手に榊原さんの悲しそうな顔を思い浮かべた私は、小さく頭を振り玄関のドアを開けた。