恋するキミの、愛しい秘めごと
「ただいまー……」
いつもよりは早い時間の帰宅とはいえ、もう夜の10時。
相変わらず毎日忙しくて疲れているであろうカンちゃんは、もしかしたらもう寝ているかもしれない。
静かに靴を脱ぎ、ソロソロと廊下を歩く様子は自分の家なのに泥棒みたい。
でも実際に、正面に見えるガラスがはめ込まれたリビングのドアの向こうは真っ暗だし。
きっとカンちゃんはもう寝ているんだろう。
そう思って、静かにそのドアを開けた。
「あれ?」
やっぱり暗いリビング。
そこに人の気配はなかったけれど、何故かテレビが点けっぱなしで、チカチカと暗い部屋を時折明るく照らしている。
「……何だっけ、これ」
そこに映し出されていたのは、いつか観たことのある映画だった。
だけどタイトルが思い出せない。
外国の、強気な女の子と内気な男の子の、小さな恋の話……。
森で無くした女の子の大切な物を捜しに行った男の子が、見つけたそれを握りしめたまま、蜂に刺されて死んでしまう悲しい結末だったはず。
小さい頃にこれを観て、どうして最後に男の子を殺す必要があるんだろうってすごく悲しかった。
それでもそこまでの淡い二人の可愛らしい恋の様子が好きで、泣きながら観ていたんだ。
その時いつも、私の隣にはカンちゃんがいて……。
こんなにいらないからって思うくらいのティッシュを箱からひっばり出して私に渡し、「泣くなら観なきゃいいのに」って笑っていた。
あの頃の私たちは、ただ無邪気で。
今も似たような言い合いをバカみたいにしてはいるけれど、それでもやっぱりあの頃とは何か違うんだよね。
それに気が付いてよかったのか、知らないままでいた方が良かったのか。
いっそのこと、この映画の二人みたいに小さい頃から恋心を抱いていたらよかったのかもしれない。
そしたら、こんな恋愛適齢期にそのことに気が付いて、こんな風に悩まなくても済んだのに。
いや、でもそれはそれでどうなんだろう。
そしたらあんな風に子猫がじゃれ合う(と言うか、引っ掻き合いをする)ように仲良くはなれなかっただろうし、こんな風に一緒に暮らすこともなかっただろうし。
「ところで、カンちゃんは……」
見た感じ、この部屋にはいなさそう。
えーと。
このテレビは消していいんだろうか。
当たり前だけれど、私がいないこの部屋でこれを観ていたのはカンちゃんしかいないワケで。
でも、その当人がいない。