恋するキミの、愛しい秘めごと
「カンちゃん、窓どうするの?」
「閉めといてー」
もー、子供じゃないんだから自分でちゃんと閉めてよね。
仕方がないから言われた通り窓を閉めて部屋を出て、彼の背中を追ってリビングに入ると、カンちゃんはそのままソファーに座って、さっきの映画の続きを観始めた。
「これ、懐かしいよなー」
ポツリと呟いた一言に、「そうだね」と答えてキッチンに向かう。
それより、あんなに冷たい手して何してるんだか。
さすがにリビングではやめてもらいたいけれど、煙草を吸うなら部屋の中で吸えばいいのに……とまぁ、取りあえずそれは置いておいて。
「んー……」
温かいコーヒーを淹れなおしながら、取り出したカップを握りしめ、どうしようかと考える。
――今日あった事を、カンちゃんに話した方がいいんだろうか。
というか、もしも榊原さんと付き合うと決めたとして……。
ライバル会社の社員と付き合うのって、うちの会社的にどうなんだろう?
もちろん仕事関係の情報を流すなんて事は絶対にないけれど、その辺は問題ないんだろうか。
ウンウンと考え込みながら、ドリッパーにお湯を落とす。
どうする?
相談してみる?
そこまで考えて……
榊原さんと付き合う方向で考え始めている自分に気が付いた。
「……」
“不思議な関係”だった彼への想い。
それは、自分でも気が付かないうちに意外と大きくなっていたのかもしれない。
届くことのないカンちゃんへの気持ちに気が付いた時、胸がすごく苦しかった。
だけど、もし今、榊原さんを失ってしまったら……。きっと今日の告白がなかったとしても、すごく寂しいと思ったと思う。
そう考えると、榊原さんはカンちゃんの代わりなんかじゃなくて、私にとって大切な人って言えるんじゃないかな……。
二つのカップを手に持つ私の前には、カンちゃんの後ろ姿。
「温かいのどうぞ」
「おー、ありがとう」
彼の視線の先にあるテレビには、いつも男の子と遊んでいたその場所に、一人立ち尽くす女の子の姿が映っていた。
この女の子の想いが、彼に届くことはもうない。
だけど、この小さな女の子も……大きくなって、他の誰かを好きになったんだろうか。
そうだとしたら、それは悲しい事なのか、幸せな事なのか。
それを知る術はないけれど、ずっと立ち止まったままでいる方が悲しい気がして……。
何だか、今の自分と重なるような気がした。