恋するキミの、愛しい秘めごと
いつものようにソファーに腰掛け、カップを手に握りしめたまま、ゆっくり息を吐き出した。
「カンちゃん」
「ん?」
「ライバル社の人と付き合うのって……会社的にどうなんだろう?」
その一言で全てを覚ったカンちゃんが、一瞬言葉に詰まったのがわかった。
だけどすぐにクスッと笑って、言ったんだ。
「まぁ、上司的にはあんまりお奨めしたくないけど」
「……」
「イトコ的にはいいと思うよ」
これでカンちゃんへの想いは、彼に伝わることがないまま消えるのか。
そう思うと、本当にほんの少しだけ胸がチクンと痛んだけれど――これでいいんだ。
「今日ね、榊原さんに告白されたの」
「へぇー」
「ビックリしたけど、嬉しかった。でも、ライバル社だし……とか、色々考えちゃって」
視線を手元に向けていても分かる。
カンちゃんは、私のことを真っ直ぐ見つめていて――その黒目がちな瞳を細めて笑っている。
きっとちょっとだけ、ヤキモチを妬きながら……。
私に向くことはないカンちゃんの気持ちをまた思い知って、胸が酷く痛んだり、涙が零れたらどうしようかと少しだけ心配をしていた。
でもやっぱり、大丈夫だったね。
私の気持ちは、きちんと榊原さんに向いていたのだと、心のどこかでホッとした。
「で? 榊原さんのどの辺がヒヨのツボだったの?」
映画のエンドロールを見つめたまま、どこかからかうようにそう聞かれて、頭の中にすぐに浮かんだのは――……。
「地球」
「え?」
「榊原さんが作った地球、知ってる?」
「……あぁ」
「初めてあれを見せてもらった時にね、どこかで見た事があるような懐かしい感じがして……。よく分からないけど涙がボロボロ出たの」
キラキラと光るあの球体に、あの日の私は救われて、
「あんなに人の心に残るものを作れる榊原さんを、すごく好きだと思った」
そのおかげで、私は今、こんな風にカンちゃんの瞳を真っ直ぐ見つめながら笑っていられるんだ。
それから、カンちゃんと少しだけ話をした。
榊原さんが、まだH・F・Rにいた頃の話を。
「カンちゃんって、榊原さんのチームにいたんでしょ? あの地球も一緒に作ったの?」
「いや、榊原さんがあのプロジェクトをやってた時、俺は自分の仕事しててさ。あれには関わってないんだよ」
カンちゃんは少しだけ瞳を伏せて、ただ静かにそう告げる。
「そうだったんだ。でもあんなの作れるなんて、本当に凄いよね……って、カンちゃん?」
「……何?」
「どうかした?」
何だかカンちゃんの様子がおかしいのは気のせい?
伏せたいた瞳を一瞬私に向け、口を開きかけてまた視線を落としフッと笑った。
「いや、ヒヨの惚気《のろけ》にもうちょい付き合いたいとこなんだけど、眠気がピーク」
ちょうど出かけたアクビを噛み殺すカンちゃんに、唇を尖らせる。
……別に惚気てないし、変な心配をして損した気分。
「口尖らせんな。また今度聞いてやるから」
「もういいです。てゆーか、明日も早いんでしょ? カンちゃんは早く寝なきゃ」
そう促すと、「今更!!」と笑ってカンちゃんは部屋に戻って行った。